あそこで


あそこで


無数の緑色の腕を広げた並木道を
夏めざして泳いでゆくと
ゆらり 猫が漂ってくる
すれ違いざまに

「今夜はあそこで待っている」

湿った大気を振動させて告げた
赤い鳥居をくぐり
錆び始めた黄昏の街に降りてゆく
猫はとうのむかしに
家々の陰を伝い
姿を消している

あそこは いつでも
仄かなひたいのように
しんとして 静かだ
だから 猫と男は黙って
酒ばかりを呑む
ときおり 長い尻尾が
男の首に巻みつき
猫は男の耳を舐めたり
噛んだりしながら
明日の出来事を囁く
音もなく開く窓のように
森から零れ出る
土笛の音色のように
過ぎ去った刻のことではなく
これからくる刻のことを

あそこの扉が閉まり
急な階段を踏みしめながら
夏をめざして女が登ってくる
音を消して一緒に猫が登ってくる
もう すでに
囁かれた明日が始まっていて
空が眠りから覚め
二匹の猫を待っていた

てにてを重ね
むねにむねを重ね
瞑目する猫たちを





スポンサーサイト
[ 2012/06/06 12:31 ] 未分類 | TB(1) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://isoisomao.blog3.fc2.com/tb.php/692-c1c30d03


まとめtyaiました【あそこで】

あそこで 無数の緑色の腕を広げた並木道を 夏めざして泳いでゆくと ゆらり 猫が漂ってくる すれ違いざまに「今夜はあそこで待っている」 湿った大気を振動させて告げた ...
[2012/06/08 21:02] URL まとめwoネタ速neo