続 猫と暦 第20話 取引き

  

  取引き

ハナビィとマチス、アースを前にして、
「とうとう、最終局面にさしかかったね。今回は皆、一緒に行こう」
と言うと、ハナビィが、
「大林さんはどうするの?」と聞いた。
「どうするのがいい?」と言う僕に、
マチスが言う。
「きっとその人はアタシたちを利用しようとしていると思うわ」
「ボクもそう思う」アースも同調する。
「だったら、アタシたちもその人を利用しましょうよ」
マチスが言った。
「お養父さんは大林さんに昔のことで恨みがあるかもしれないけれど、
騙されている振りをして反対に騙したらいいわ」
ボクは黙って頷くばかりである。
いつまでも過去に捕らわれていては先に進めない。マチスの言うとおりにするのがいいのだろう。このさい個人的な感情は棚上げにしよう。
「マチスの言うとおりにしよう。大林にはこちらの言うとおりに働いて貰う」
僕達の意見が一致したところに携帯の呼び出し音が鳴った。
アースの飼い主の平岡裕美子からだった。
近いうちにアースに会いに行きたいと言うものだった。
「アースにあなたの声を聞かせますね」と言って携帯をアースの耳元に当てる。
「もし、もし、アース、アーチャン聞こえてる?ユミちゃんだよ。もし、もし」
アースは嬉しそうに尻尾を烈しく振りながら、アヴウ、アヴウと答える。
アースの飼い主に、ここ数日はいろいろ忙しいので、また都合の良い日を連絡すると行って携帯を切り、
「アース、ユミちゃんのところに帰れるかな?そうだといいね」と言うと、
「うん、帰りたいよ。でも、みんなと一緒にいるのもいいな」
アースは飼い主の所に帰れることの嬉しさと、ハナビィ、マチスと別れることの寂しさが入り交じって複雑な気持のようなのだ。
また、携帯が鳴った。今度はサブローからだった。
首相の原発推進の記者会見をテレビで見たようで、
「これからどうしたらいいのか」
ということだったが、普段通り何事もなかったようにしたらいいと答える。もし、何か起きたらその時はなんとかするから、安心してくれと伝えた。
空腹を訴えるハナビィたちに食事を与え、僕も簡単な朝食をとった。
約束の時間がきた。押し入れの穴に飛び込む。闇の中を漂い細かい粒子になった僕達は目的の場所に向かっていた。

立派な応接室に僕たちはいた。しゅんっ、といった風に着いた。
テーブルを挟んで元官房長官大林興造がソフアーに座っている。予期していたこととはいえ流石に突然現われた二匹の猫と一匹のダックスフントを従えた僕には驚いたようで、腰を浮かした。
「驚かせてスマン。こうした方が簡単だからな」
「ああ、すごいものだな。今もって信じられん」
「その、猫と犬は?」
「僕のご主人さまということだ。この前言ったように俺はただのお手伝いをしているのに過ぎんのだ」
アースが低く唸った。大林が気に入らないようだ。ぴったり僕にくっついている。ハナビィとマチスは平然とソフアーに座っている。
唸っているアースが気になる様子でちらちらアースを見ながら、大林興造が
「早速、用件に入ろう。君の要求を聞きたい」と言った。
「先に、あんたの希望を承りたいね。おれたちはあんたがどう考えようと、やりたいように出来るのだから、そちらには選択肢はない。昔の友人のよしみであんたの希望を聞いてやる」僕は冷たく答えた。
自分の置かれた立場を直ちに理解した大林は彼の考えを述べた。
現在の内閣は総辞職して新しい脱原発内閣をつくるというものだった。
「内閣総理大臣は大林興造ということか」僕は言う。
「そう願えればな。そして、それと同時に移動させた中央省庁群を元に戻して貰いたいのだ」
「虫の良い話だな、まったく」ふんっ、と鼻で笑いながら僕は言った。
「あんたを総理大臣にしたら俺に何かいいことがあるのか?」
「原発は無くなる。そして、この国を変ることができる」
「そうかい。どんな風に変えるのかね?これまでのあんたのやり方を見ているととてもオレの考えと一致するとは思えないが」
「君の持っているその力があれば何でも出来る。ことによったらアメリカとも対等に交渉できるかも知れない。そう思わんかね?」
「オレたちがあんたの望みを叶えてやるとしても、条件がある」
「どんな?」
「まず、第一に現在の閣僚は全員交代する。党執行部は総入れ替え。あんたが追い落とそうとした豪腕、藤谷太郎を副総理に起用する。あんたたち得意の内ゲバ騒ぎはこれでオシマイにすることだ。藤谷に頭を下げろ。いまの我が国政界にはあの男しか居ないぞ。藤谷に実権を委ねることだ。
あんたが説得できないのなら、オレがこの子達を連れて奴さんのところに出向こうか?あんたじゃ信用してくれそうにもないからね」
しばし、大林は腕組みをして目を瞑り考え込んでいた。
「で、君はどうする?」と言葉を発した。
「オレはこれまでどおり生きて行くさ。政治や権力には興味はない。普通に働いて食って、寝る、それで十分だ。この猫や犬たちと同様に」
ハナビィの喉を撫でながら言う。
大林はそう言う僕を珍しい動物でも見るような目つきで眺め、
「分った、そう言うことにしよう。藤谷太郎には今すぐ、連絡を取ってみよう。それで、首相官邸などを動かすのは中止だな?」
「いや、それはやる。国会も一緒だ。いちどは全部動かすことにした」
「それは、困る!」
「困ればいい。それで、あんたの言うとおりにことが進んだら、元に戻そう。
ただし、電力会社の本店と原発に関する省庁は原発に残す。原発が全て廃止になるまでは、な。
あんたも、一緒にいってもらう。それで首相に引導を渡すのが良い。
怖じ気づいているだろうから、二つ返事で総辞職するだろうよ」
大林は席を立ち部屋から出て行った。藤谷に連絡を取るのだろう。
「これでいいかな?」マチスに聞いた。
「いいでしょ。今までのところはね」マチスは僕の膝に乗って言う。
「でもさ、嫌な人だね。ボク、嫌いだな、あの人」とアース。
犬はひとを見抜く能力がある。猫も同じだが。それに引き替え人間は駄目だ。

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[ 2012/03/06 16:01 ] 未分類 | TB(0) | CM(1)

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[ 2012/03/06 23:00 ] [ 編集 ]

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