続 猫と暦 第16話 再会



続 猫と暦 第16話 再会


ポックルさん、頼むよと言うと暗闇の中から、お任せをという声が返ってきた。
オフイス街にその建物はあった。人影はまばらだ。
建物の地下一階まで階段を下り、夜間通用口のインターフォンで防災センターを呼び出すと、あらかじめ連絡があったようで、ドアの施錠が解除されるジーッという音がした。
知らされたフロアにエレベーターで上った。
「大林法律事務所」と銘打たれたドアの前に立つ。大林の話では彼の息子が開いている法律事務所だという。そう言えば大林も弁護士だった。
入り口のインターフォンを呼び出す。すぐにドアが開いて中に招じ入れられた。
三十代半ばを越えていると思われる男が僕たちを応接室に案内する。
立派な応接室だった。壁に大きな絵が掛けられている。
その男と入れ替わりに大林興造が姿を現した。
「随分、しばらくだったな」
大林はしわがれた声で言った。
「ああ、そうだな」
僕と大林はソファーに座って向かいあう。
「まさか、また君に会えるとはね。思ってもいなかったよ」
大林は少し笑みを浮べて言ったが、眼鏡の奥の眼は笑ってはいなかった。
「オレもだ」
「あれからどの位経つかな」
「さあ、忘れた」
言葉が途切れてしばし、じっと互いの心を探り合った。
「それで、オレにどんな用がある?」僕が言う。
「それだが、今度の原発騒ぎは君の仕業と見たが、どうだ?」
「そうだとしたら?」
「そうなのか?」
僕は沈黙でそれに答えた。
目の前に居る男がかつて僕の恋人を奪い、そして死に追いやったのだ。
長いこと僕を支配していた悪夢の続きがこれから始まるのか。
しかし、不思議なことに、あれらのことが次第に遠ざかり、どうでも良いことのように思えてきた。今こうして、相対している男はただの老いぼれにしか見えないのだ。あれほどまでに憎しみを持っていたのに。
ブルゾンの中でじっとしていたハナビィがもぞもぞ、動いた。
大林はそれを見て、
「何だ、懐に何かいるのか?」と聞いた。
僕はブルゾンのフアスナーを引き下げて、ハナビィを膝の上に置いた。
「猫か。カメラに映っていた猫だな」
「オレの唯一の家族だ」
ハナビィはじっと始めて会う大林の顔を見ている。
「原発の話だが、あんな事をどうしてできたのか、教えてくれ。警視庁をはじめとして官庁街を、ごっそり飛ばしてしまうなんて信じられんのだ」
大林はハナビィと僕の顔を交互に見やりながら言った。
「天罰が下ったんだろうよ」
「このままでは我が国は崩壊する。なんとか話し合う余地はないのかね」
「崩壊するのなら、するさ。その跡に新しいものが生まれる。昔あんたはそう言ったはずだ。今もそれを信じているとは思えないが」
僕はたっぷり皮肉を込めて言う。
「あの頃はお互いに若かった。いっとき、夢を見た。そう言うことだ」
「そうか、夢から覚めて仲間を裏切り、亜紀子を殺したわけだな」
大林の目が一瞬細くなり、剣呑な視線が僕を捉える。
「あのことは謝っても許してはくれないだろうが、意図したことではなかった」
また、二人は口を閉ざす。
たまらずに、大林が口を開いた。カードは僕らの手の中にあるのだ。
「佐竹のその力があれば、この国、いや世界は思いのままに動かせる。
どうだ、力を貸してくれ。ふたりでこの国を作り直そうじゃないか」
「へえ、ずいぶんと虫の良いことをおっしゃいますねえ。さんざん今の政権でも勝手なことをおやりになってたんじゃないの」
「まあ、そう言わずに、なんとか頼む」大林はテーブルに手を突いて頭を下げた。
「考えてみる。仲間とも相談しなくては。オレの一存では決められない」
「仲間がいるのか?佐竹ひとりではなかったのか?」
「ああ、大勢いる。これはな、あの原発の被害を受けた土地の全ての生物たちが決めたことなんだよ。オレは、ただ手助けしているのにすぎないのさ」
「じゃあ、あの警告文書は本当だったのだな」
大林はしぼり出すように呟いた。
「少し時間をやろう。こちらの要求をだす。それに回答をしてもらいたい。
それによっては皆さん方政府首脳、政治家、原発を推進してきた方々、学者も、ジャーナリストも壊れた原子炉の中に入って貰うことになるかもしれない。これは脅しではない。よく分っているよな。
おれがその気になれば、大林あんたを今すぐ、あそこに放り込むなんて事は息をするより簡単にできる」
「そんなこと!!」
「ついでに言っておくが、あんた方のことは全部こちらには手に取るように、お見通しだ。隠し事をしても、オレたちを捕まえようとしても無駄だ。
オレたちはあんたたちと、ちがう世界にいるのだということを理解して欲しい」
大林は踏みつぶされたヒキガエルのように顔をゆがめ、唇を震わせていた。
「それでは、数時間後にあんたの事務所に要望書を送る」
そう言って僕は立ち上がりハナビィを抱きあげ、頭上に現われた穴の中に吸い込まれた。
あとで、それを目の当たりにした大林の様子をポックルから聞いた僕たちが大笑いをしたことは言うまでもない。
















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[ 2012/02/12 23:07 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)

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