続 猫と暦 第15話 古い友からの手紙

   


    古い友からの手紙


ログハウスの窓に午後の日差しが差し込んでくる。その中に立ち、僕はポケットから封書を取りだして開いた。

佐竹僚輔君
 今回の事件の容疑者だとして、国家公安委員長が持ってきた、監視カメラに映っていた男が、君だったとはね。
学生運動の中で、姿を消したその後の君のことを、私は知らないが、今回の出来事を見る限り、君は途方もない能力を持って我々の前に現われたようだ。それで、君と差しで会いたいと思いこの手紙を書いている。
勿論、あの一件で君が私を信用するとは考えていないが、事は我が国の存亡に関わることでもあり、大至急話をしたい。
警察などには一切伏せておくので、その点は安心して貰いたい。
返事を待っている。
私の携帯は・・・・・・・
                     大林興造

さて、どうしたものだろう。しばし考え込んでいた。
ハナビィたちはソファーの上で眠っている。アースはいびきをかいていた。
サツキさんとサブローはちらちら僕を見ながら、小声で話をしている。
窓の外の風景をぼんやり眺めている僕の傍らに、サツキさんが立った。
「どうしたの?」
僕は黙って大林からの手紙を渡した。
サツキさんは短い文面にさっと、視線を走らせ、その紙片を僕に返した。
「会うの?」
「迷っている」
「行かない方がいいんじゃない?」
大林興造と会ったところでどうなるものではないのだ。気持ちが揺れ動くのはただ、僕個人の問題なのである。何時までも引きずっている過去にきっぱり別れを告げるためには大林と会う必要があった。
「嫌な予感がするわ。」
サツキさんは僕の手を握って言う。
大林がこの手紙を書いたのはまだ中央官庁街が原発に移転する前だった。あるいは警察庁、警視庁が移転する、(移転させられたと言った方が適切と思われた)以前の事だとしたら彼の考えが今現在は変わっている可能性がある。
政府は大混乱に陥っているのだ。その政府の中枢にいる大林がまだ僕と会いたいと思っているのか、それは分らない。

ポックルに聞いてみなければ、と思った途端、ポックルが目の前にいた。
あたかも僕の心の内に住んでいるかのようなのである。
サツキさんも思わず僕の腕にしがみつく。突然の出現にはいつまでたっても慣れることが出来ない。
「あの御仁は今、首相官邸で会議中ですよ。連絡を取りたいのなら、あちらに行かなければなりませんね」
「首都の様子はどうなのだろう?」
「盛り場の一部を除いて灯が消えたような有様です。警官が随所で警戒にあたっています」
混乱に乗じた暴徒を怖れているのだ。
「自衛隊の出動も検討されています。今の会議でもそれを」
「街中はだめか。僕の家はどうだろう?」
「張り込んではいないようですね」
「監視カメラとか盗聴器は?」
「カメラは外に数台、盗聴器はありません」
「それじゃ、家に戻ろう」
僕は気持ちよさそうに眠っていたハナビィを起こして
「ごめんよ、寝ているところを、ちょっと家に行きたいんだ」
僕一人では何も出来ない。ハナビィがいないことにはあちらの世界に行けない。
目をつぶっていたサブローが
「向こうに行くのなら何か被るものを持ってきてくれ。頭がスースーしてかなわない」と僕に言ったのでサツキさんがうふふと笑う。
「了解」と僕は答えてハナビィを腕の中に抱いた。

警察の手を逃れ、逃げ出してからそう時間は経っていないのに、部屋の中は寒々と暗かった。窓のカーテンをしっかりと閉め、懐中電灯を探しだして点灯する。携帯に大林の番号を打ち込んだ。
呼び出し音が2回、三回と鳴る。五回目切ろうとしたとき相手が出た。
「大林です」
しわがれた低い声が流れてきた。
「佐竹だ。今、大丈夫か?」
「ああ、いい、待っていたぞ」
「伝言を受けとった」
「会えるか?」
「いつ?」
「すぐにでもだ」
「場所は?まさか首相官邸でもあるまい」
「ふふふ、変わらないな、その言い方。場所はすぐ連絡する。
何といっても、今では、お前もオレも有名人だからどこでもと言うわけにはいかないだろう」
「分った」と言って僕は携帯を切った。
大林から連絡がくるまでの時間、PCの電源を入れた。
メールが入っていた。ブロトモかのマチスの飼い主の情報が寄せられていた。
アースの飼い主、平岡裕美子からはアースに会いに行きたいとあったが、今は無理な話だ。簡単に都合の良い時を連絡すると返事を送る。
マチスの飼い主のことも今しばらくは難しい。丁寧にお礼のメールを返す。
携帯の着信音が鳴った。
携帯を耳に当てながら、サブローの禿頭を隠すキャップをポケットに突っ込む。






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[ 2012/01/30 14:22 ] 未分類 | TB(0) | CM(2)

いつも描写力のある文章で、たくさん書かれているのに感心しております。
これからも楽しみにしております。
[ 2012/01/30 19:45 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

アランフェ様
コメントありがとうございます。
あなたの写真もなかなかいいですよ。
また、お立ち寄りください。

[ 2012/01/31 23:57 ] [ 編集 ]

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