続 猫と暦 第13話 中央官庁街原発へ移転


   中央官庁街原発へ移転


「タケさんよ、どうもに、おいらには分らないのだが、取り調べを受けていたときに繰り返しあんたとの関係を執拗に聞かれた。
何時から付き合うようになったかとか、他にどんな人間がタケさんと関わっているかとか。あんたは相当な悪人みたいな口ぶりだったな。
おいらは何も喋らなかった。そしたら、途中で警察官とは思えない感じの男が取調室に入ってきた。
どこかで見たことのある顔で、タケさんと同じくらいの歳の男だった。
取調官を外に出し、おいらと二人きりになって、佐竹とは親しいのか?と聞く。
おいらが返事をしないと、おいらの顔を覗きこんで、にやっと、笑ったよ。

それが実に薄気味の悪い笑いだった。背筋がぞくっと、寒くなったぜ。
その時、おいらはその男が誰だったか思い出した。
前の官房長官だった。間違いない。」
ハナビィとポックルが消えた後、サブローが僕に言った
「それで?」
「うん、おいらが黙って口を開かないと、そいつはこう言った。
佐竹に、俺が会いたいがっていると、伝えろ。そう言えば分る。
まるで、おいらがタケさんに助け出されるのを知っているみたいだった」
「それから?」
「そして、こう言ったよ。あの店は息子に代替わりはしたが、まだ同じ所でやっている。そこに
伝言を残しておく、と」
そうか。あの男とまた対峙するのだ。このことは必然だったのだろう。
仲間を裏切り、見捨て、国家権力側に寝返り、その中枢に登り詰めたあの男とはいずれこうなる宿命だったのだ。
ハナビィとマチスは僕の姿を変えた分身なのかもしれない。
僕はこのような時が来ることを待ち望んでいたのだとも言える。
長い間暗い夢の中だけのことだったが、いまそれが成就されるか、あるいは
また、かつてのように打ちのめされるのか、それは分らない。
しかし、あの時と決定的に違うのは今の僕には絶対に裏切らないハナビィとマチス、アースがいることだった。
そして、サツキさんとサブローも、だ。
アースを膝の上にこの話をじっと聞いていたサツキさんが、
「タケさん、その人とはどんな関係なの?」
なんと答えたらいいのだろう。
「話しても、あの時代のことは理解できないだろう」
サツキさんとサブローに僕は言った。
サブローは勿論、サツキさんにしてもまだ子供の頃だったに違いない。
僕は二人の問いに答えて、学生時代、すなわち60年代の学生運動の渦中で大林興造と知り合ったことを簡単に話した。
詳しいことはまた落ち着いたらと話すと言って終わった。

ハナビィがポックルと帰ってきた。
「どうだった?」と聞く。
ハナビィが前足をひと舐めしてから、
「今やアタシ達は大変な犯罪者になったみたいね」
「ああ」
「大方の中央官庁は原発周辺に滞りなく移転終了です」
ポックルは学生の引っ越しの様子でも、伝えるように事も無げに言う。
「ほう」とサブローが一言。
「役人達は原発事故が直ちに健康に影響を及ぼすことはない、と言ってきたのだから、今更ジタバタ騒ぐことはないだろうよ」と僕が言うと、
「しかし、大混乱ですよ。それこそ天と地が逆さになったみたいに」
ポックルが髭をピクピク動かして言った。
「この国は崩壊するな」サブローが禿頭をつるりと撫でて言う。
「いや、そうはならないさ。新たな仕組みを作るための第一歩だ」
しばらく、皆、黙り込んだ。
そう言った僕も、確たる自信があるわけではなかったが、原爆が何十個も落ちたような事故にもかかわらず、平然とこれまでどおり事を進めているこの国のあり方を見ていると、一旦、とことん仕組みを壊さなければ未来は開けないと思うのだ。
昔原発反対の立場の人たちが
「原発が安全で無害だというなら首都に原発を作ったらいい」
と言ったことに、国も電力会社も無視してきたが、今や、放射能を放出し続ける原発の真ん前に国の中枢があるのだ。
最後の仕上げに「原発事故の収束宣言」を出した首相官邸と国会を一番放射能に汚染された所に移す。
これが、マチスの考えだった。
最初、僕たちは首都の国会の前に原発を移動させようとしたが、マチスによれば、
それはこの原発事故には責任の無い、多くの市民に被害を与えることになる。
それならば、当事者の政府、政治家、官僚、電力会社を原発のそばに持って行けばいいと、こうなのであった。
事故は収束したのだから、サブロー風に言えば
「なんか問題でも?」なのである。











スポンサーサイト
[ 2012/01/24 15:26 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://isoisomao.blog3.fc2.com/tb.php/597-41a93ae9