続 猫と暦 第9話 サツキさんも共犯者




   続 猫と暦 第9話 サツキさんも共犯者




「タケさん、いったい、これはどういうこと!」
サツキさんは険しい表情で言った。目が三角になっている。
「実は・・・」
僕はことの成り行きをかいつまんで話した。
話を聞き進むに従ってサツキさんの硬い表情が解きほぐされ戸惑いに変わってていく。
「ということは、猫や犬が話をするの?信じられないわ」と言うサツキさんに、
「ボク、話せるよ」
ソフアーの上でサツキさんを見上げ、アースが言う。
その時のサツキさんの驚きようといったら、腰をぬかさんばかりだった。
「ということだ」
すっかり固まっているサツキさんの肩をぽんぽん叩いて僕は言う。
「驚かしてしまって、ごめんなさい」
ハナビィも口を開く。
「アタシはハナビィの母のマチスです。よろしくね」
マチスはサツキさんの足に顔をすり寄せて言った。
「アースはお店に来た時も話ができたの?」
アースを抱き上げて、聞くサツキさんに、
「あの時は話せなかったよ。でも、サツキさんの言うことは分っていた。鶏の唐揚げごちそうさん」とアース。
「これで、少しは理解できたかな?」
僕はサツキさんにソフアー座るように促しながら言った。
僕の座るソフアーにはハナビィとマチスが、向かいにはサツキさんとアースが腰を下ろした。
「ここはどこ?」
「古い友達の別荘だ。危険は及ばないから安心していいよ。今はあの時より過去にいるから、追ってはこない」
僕は不思議な穴、ハナビィが持ってきた穴の話をした。過ぎてしまった時間、すなわち過去には行けるが、未来には行けない穴の事を。
それもハナビィと一緒でなければ行けないことも、僕たちの居るところの物体を動かすことが出来ることも説明した。
「じゃあ、あの事件はタケさんたちが?テロリスト!」
「タケさんたち」(僕一人でやったことではないと理解してくれたわけだ)ときた。サツキさんにはようやく分ってもらえたようで、ホッとする。
これでサツキさんは立派な共犯者になったと言うと、
「そうね、あたしもテロリスト、猫も犬もテロリスト、いいんじゃない」
けろりとして事も無げに言う。
女は素晴らしい。たいしたものだ。度胸が据わっている。
人間の男はそれに比べると、と考えて少し気落ちするのであった。

「救出作戦は成功でしたね」
ポックルが窓際に立っていた。見たこともない生き物が突如現われてサツキさんはまた、また、動揺する。
「サツキさん、彼はポックルといって、僕たちの世界とは違うところに居る生き物でね。あやしいものではないから安心して」
またしてもサツキさんを納得させなければならない。
「それで、その後あちらの様子はどう?」とポックルに尋ねた。
「捜査員は張り込んでいますよ。捜査令状が出ないので踏み込めないんですね」
「政府の動きは?」
「もう、完全に対決モードですね。首相もどうしたことかやる気満々です」
「それも、いつまで持つかだね」
「あなたのネットの記録が解読されたようですよ。アースくんの飼い主さんに辿り着くことに注意する必要がありますね」
「それはまずいな。見張っててよ」
「もうひとつ、あなたがよく知っている人間が政府与党の中枢にいますよね」
ポックルは突然意外なことを言った。
誰にも言わなかったが学生時代に知っていた男が今では政府与党の要職についていたのだ。無かったことにしたい暗い過去の記憶だった。
その男は前内閣では官房長官職にあった。
「それがどうした?」
「あなたと接触したがっているようです。どうします?」
「ほうっておこう」
サツキさんも、ハナビィも、マチスもそしてアースもじっと僕の顔を見ている。
「タケさん、そんなエライ人知ってたんだ」サツキさんがぽつりと言った。
昔は偉くともなんともなかったと、言い捨てて、ぼくはキッチンに向かった。
サツキさんのためにお湯を沸かしながら、僕はグラスに氷を入れてウイスキーを注ぎそれを呑んだ。
喉をながれてゆくアルコールを感じながらサツキさんが、
「お酒!」と言ってコップをドンと置いた夜を思い出していた。
そしてまた、もっと昔あの男と場末のバーで安いウイスキーを飲みながら青っぽい理想論を語り酔いどれた夜を思い出していた。
冷凍庫にあった珈琲は素敵な香りを部屋に漂わせてくれる。
「ありがと」いつものように首を傾げサツキさんはほんのり言って、
白く細い指で珈琲カップを摘む。
「お酒!」といってドンとコップを置いたサツキさんと珈琲を飲むサツキさん。
原発も何も関係なくこのままサツキさんや、猫や犬たちと森の中で暮らせたらそれもいいな。
一瞬その思いが頭の中を駆けめぐる。

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[ 2012/01/17 11:23 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)

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