続 猫と暦 第8話 反撃の狼煙


続 猫と暦 第8話 反撃の狼煙





マチスの考えを聞いた後、僕たちは長い時間それを実行するために綿密な計画を検討した。
もしも、米軍基地の問題で揺れている沖縄の人たちがこのマチスの考えを聞いたらどう思うだろう。戦争に負けて半世紀をはるかに超えて今もなお、外国の軍隊がこの国にあることは、原発の存在とある意味では似ているのではないか。
国民の命を第一と考えるのか、外国の軍隊を第一とするのか、国民の命よりも原発が重いと考えるのか。
原発事故で発生した放射性物質を無主物だから、電力会社にそれによる損害賠償の責任はないとした裁判所の判断が示されたが、社会の正義とは、こうも権力者に都合の良いものだったのかと思うと暗澹たる思いにかられ、いっそ、最高裁判所にも原発を一基進呈したい心境にもなる。

「今、向こうの時間は何時になる?」
「深夜を少しまわったところでしょうか」ポックルは冷静に答える。
僕たち三匹と一人は少なからずマチスの計画に興奮していた。
ポックルの話によると、政府は犯人とおぼしき僕を特定したことによって、この事件は解決できると踏んだ。
犯人を捕らえれば何事も全て解決する。テロリストを逮捕で、幕引きなのだ。
既に大手メディアのトップには報道に関して規制する動きがある。
こうなると、容疑者、佐竹僚輔は逮捕どころか即座に射殺となる可能性が大きい。死人に口なしだ。
今のところ容疑者である僕を取り逃がしたが、確保するのは時間の問題と、
政府の上層部は考えているようだった。
共犯者はいないとした捜査当局の判断が大きな過ちを犯していた。
まさか、二匹の猫と一匹のダックスフントが主役とは想像すら出来なかったのである。

僕たちは穴を通り家に戻った。灯りをつけないでベランダから外に出る。はす向かいの空き地に車がとまっていた。ハナビィ、マチス、そしてアースとぐるっと廻って路地に入り空き地に留まっている黒い車の前で足を止めた。
アースがクンクン鼻を鳴らしながら草むらに入る。
そして、車のタイヤに後ろ足を上げ放尿した。ハナビィがボンネットに飛び乗った。マチスは僕の後ろに潜んでいる。
車のドアが開いて二人の男が降り立つ。若い男と初老の男だった。
初老の男は油断のならない雰囲気で、すっと僕の前に立ち顔を覗きこむ。
驚いた振りをして僕は数歩後ずさりした。
「なんですか、あんたたち」
二人の男はポケットから手帳を取りだし、
「警察の者です。捜査中でして。ご近所の方ですか?」と言った。
アースがワンワンと吠える。
「捜査中?なんのです?」僕は言った。暗がりで僕の顔は見えない。
その瞬間夜空に浮かんでいた穴が舞い降り僕たちを呑み込んだ。

二人の気の毒な男たちは何が何やら分らないまま穴を通り抜けて、発電所の2号炉建屋の前に立っていた。当然僕たちも一緒だ。
僕たちは瞬時にまた頭上の穴に飲みこまれていたが、二人の男たちは茫然自失の状態で立ちつくしていた。深夜だったが原発は24時間体勢で原子炉の冷却に努めていて、防護服を着た作業員の姿が見える。
その現場に私服の男が立っていた。それを見とがめた作業員が駆け寄り矢継ぎ早の質問を浴びせる。
警察官と言っても誰も信じるはずもない。防護服も着ないで夜の夜中立っているのだ。現場は騒然とした空気に包まれた。
引っ立てられた事務所で警察官と名乗る男たちが本庁と電話連絡の結果ようやく身元の確認がなされたのはしばらく経ってからだった。
僕たちはまた家に戻っていた。空き地の車にメモを残すためだ。

        <告>

 約束を破った代償は大きい。まず警察官二人を原発に送った。
 次は総理あなた達だ。
 どこに逃げようとも無駄だ。

       ○○町とその周辺の生き物たち


森の中のログハウスで僕たちはポックルの言うことに耳を傾けていた。
あちらの様子を聞いていたのである。
政府は混乱の極みだった。彼らの目論見は水泡に帰したのである。犯人を捕らえればという計画は脆くも費え去った。それでも警察庁を始めとする法務官僚たちは強硬論を主張している。どんなことがあろうともテロリストを逮捕すると言うのだ。犯人は特定されたのだから警察の威信にかけても捕らえねばならない。原発に拉致された二人の警官は車で本庁に送り返される途上にあった。
到着して状況を聞けば新たな手がかりを得ることが出来る。
警察庁の上層部はそう判断していた。

朝日が昇る時間にハナビィはカタツムリを頭に載せた蛙がいる首都の池にいた。
蛙たちはまだ寝ぼけ眼だったがハナビィの姿を見て一斉に喜びの声を上げる。
カタツムリを頭に載せた蛙は
「おや、おや、ハナビィさん、こんな朝早くからどうしました?」
と目玉をぐるりと回してから言う。
「おはよう、蛙さん。じつはね、嫌なことが起きてまたみなさんにここから引っ越しをしてもらわなければならなくなったの」
「それで、どこへかな?」
「ここよりは棲みよい湖があるから、そこへ」
「まあ、ハナビィさんの言うことだからいいでしょう。それにここはあまり良い環境とは言えないし」
このやり取りのすぐ後に首都の池から全ての蛙たちは姿を消した。
監視カメラにはキジトラ模様の猫が一匹映しだされていた。
それは突然現われたかと思うと、また突然カメラから消え去ったのだ。
蛙たちがいた池のある公園管理事務所の職員がいつもは見かける沢山の蛙が居ないことに気がついた。
それはすぐに報告され政府へも伝えられたのだった。
そして今は森の中のログハウスの近くにあるダム湖に、蛙たちの姿を見ることができる。
ポックルは逐次あちらの様子をまるで実況中継でもするように、僕の知りたい事を伝えてくれている。
警察は二人の捜査員が原発に連れ去られた(?)事を受け素早く動いていた。
まずは捜査員のいた所に急行したのだ。そして自動車の中に残されたメモを発見する。緊急合同捜査会議が行われた。
しかし、まだ事の重大さを認識することはできなかった。もし出来ていたなら「コネコネコ」のサツキさんに任意同行を求めることはしなかっただろう。
ポックルは捜査会議の模様を僕たちに伝えてくれた。
悩ましいことであった。なんらかの対応を講ずる必要が起こりつつある。
「サツキさんを助けようよ。警察に捕まったらこの計画はできない」
アースが言うと、ハナビィも、
「そうよ、ここに連れてきて」と言うのであった。
もしもサツキさんを人質にとられたら拙いことになると、皆が思ったのだ。
警視庁の車は既にサツキさんの家に迫っている。
僕たちは穴に飛び込んだ。サツキさんの部屋へと。
サツキさんは突然現われた僕とハナビィ、マチス、アースに声にならない声を上げた。
「サツキさん、わけは後で話すから身の回りのものを用意してくれ。急いで」
僕は窓のカーテンを引いてその隙間から外を窺いながら言った。
青ざめた表情でサツキさんは無言で、てきぱきと衣類をバックに詰めている。
車が止まる音がした。バタン、ドアが閉まる。何人かの足音が近づいた。
僕はサツキさんを抱きしめ、ハナビィたちを足元に寄せて祈った。
「ああ、どうか、間に合いますように」
穴はちゃんと僕たちを運んでくれた。
しゅんっ、いつものように僕たちが望むところに僕たちは立っていた。
そこは森の中のログハウスだった。






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[ 2012/01/16 11:17 ] 未分類 | TB(0) | CM(2)

だんだんエキサイティングになってきましたね!ドキドキ。
[ 2012/01/16 23:59 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

TSUさん。

マチスは凄い!
度胸ありありです。さて、マチスの提案とは?何でしょうね。

[ 2012/01/17 03:34 ] [ 編集 ]

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