続 猫と暦 マチスの提案

   

  続 猫と暦 


   マチスの提案



「目が覚めましたか?」
ポックルが窓から差しこむ光りを背にして立っていた。ぴんと尖った耳が逆光で鋭い刃物みたいに見えた。猫よりも数倍立派な髭が顔からはみ出して白く輝いている。
「少し眠ったかな」
「よくお休みでしたよ」
「あちらの様子はどうなっているんだろう?」
僕はポックルなら分っているに違いないと思って聞いた。
「やはり、間一髪というところでしたね。警察が来ましたよ」
「それで?」
「重要参考人ということのようです。放射能測定をしていましたからね。
線量計がピーピー反応して、大騒ぎでした」
そりゃあ、そうだろう。僕もハナビィたちもたっぷり被爆している。
僕が原発周辺に居た動かし難い証拠があったわけだ。
しかも、公共の建物を無断で勝手に移し替え、多くの人々に放射能被爆させるかもしれない危険な行為に及んだ。立派な犯罪である。
どのような罪名で僕を追うのかは分らないが、途方もない量の放射性物質をまき散らし原発のある周辺だけではなく、全世界に被害を及ぼした電力会社と国が罪に問われないのは納得がいかない。
「警察は温和しく帰ったのかな?」
「放射能以外はこれといった証拠はありませんからね。引き揚げざるをえませんよ。ただ、捜査員が張り込んでいます。当分帰れませんね」
ポックルによればあちらの出来事はどんなことでも分るようだった。
これは実に有難い。相手の手の内がすっかりこちらにはお見通しなのだから。
「さて、これからどうするかね」
「どうしますか」
「警察庁と警視庁に原発を一基送り届けてやるか」
聞きようによってはまことに物騒な話である。メルトダウンした原発はかつてこの国に投下された原子爆弾の比ではない威力があるのだ。
「で、きみの長老たちはどう考えているのかな?」
「長老からの指示ではあなた様の手助けをしろ、とのことでして」
「居酒屋の「コネコネコ」に警察は行ったのだろうか?」
「ママはビックリしてましたね。でも、何も知らないと分って引き揚げました」
「そこに張り込みは?」
「今のところ居ないですね」
サツキさんに何も話をしなくて正解だった。少しでも知っていたら嘘をつかなければならない。サツキさんを巻き込むことはなんとしても避けたかった。
捜査の手は何も知らないサブローにも及ぶだろう。何も知らないと言っても、
連中が執拗に責め続けて無かったことを、あったことにするのは僕の体験からよく分っていた。
アースの飼い主の平岡裕美子は?当然ネットの記録も調べるだろう。
無関係の人たちを巻き込むのは避けたかった。平岡裕美子の場合は○○町の住民でしかも夫は原発で今も働いているのだ。知らぬ存ぜぬと言ったところで素直には聞き入れてくれないだろう。アースが悲しむのは想像できる。
そのアースはスースーと寝息をたてて眠っている。時折手足をピクピク痙攣するように動かしている。飼い主の夢でも見ているのだろうか。
マチスのお腹に顔を埋めて眠っていたハナビィが目を開けた。大きく欠伸をして起きあがり後ろ足で耳の裏を掻いた。
その気配で目を覚ましたマチスとアースたち三匹にポックルから知らされた状況を説明する。
「それで、お養父さん、どうしたらいいの?」とハナビィ。
「分らないね。みんなで考えてみよう」
僕は三匹の頭を順繰りに撫でながら言った。
「このまま逃げ続けるのは嫌だな、ボク」とアース。
「こちらから仕掛けましょ。アッという方法で」とマチス。
良い考えでもあるのかと言う僕にマチスは答えた。
「あるわ。これならどんな手強い相手でも泣いて降参よ」
猫の度胸もたいしたものである。しかも結構年とった猫だ。
猫は歳を取ると名古屋の化け猫寺と言う所に行って修行をつむらしいが、マチスはまだそんな歳には見えないのだ。
「良い考えとはどんなこと?」
人間が猫に知恵を借りるとは考えもしなかったが、振り返ってみればこの出来事はハナビィがいなければ出来なかったことで、僕はちょっと手助けをしているにすぎない。
「それは・・・・」とマチスは喋り始めた。



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[ 2012/01/15 15:44 ] 未分類 | TB(0) | CM(4)

化け猫寺

「猫は歳を取ると名古屋の化け猫寺と言う所に行って修行をつむ」というのは本当ですか?
っていうか、そういうお話があるのですか?
初めて聞きました。詳しく知りたいなあ、民話とか伝説でしらべればでてくるかしら?
[ 2012/01/15 18:20 ] [ 編集 ]

Re: 化け猫寺

TSUさん。
これは適当な話です。
大昔読んだ「ドン松ゴロウの生活」井上ひさし
にあったと記憶していて今に至るまで信じている話です。
何故化け猫寺は名古屋なのか、山形ではだめなのか、
あるいは埼玉県では?などとその時は思ったものです。
井上ひさしが書いたくらいですから、根拠があってのことかも
知れませんね。

> 「猫は歳を取ると名古屋の化け猫寺と言う所に行って修行をつむ」というのは本当ですか?
> っていうか、そういうお話があるのですか?
> 初めて聞きました。詳しく知りたいなあ、民話とか伝説でしらべればでてくるかしら?
[ 2012/01/15 18:36 ] [ 編集 ]

↑ 私もTSUさんと同じことを考えていました。
この文は、井上ひさしさんの小説の一部から
引用されたとの事ですが、お話の中でピカッ
と光っていました。
[ 2012/01/16 08:01 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

トパーズさん。
名古屋の化け猫寺があるのなら早速我が家の猫をそこへ、
修行に差し向けたいところです。


[ 2012/01/17 03:32 ] [ 編集 ]

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