続 猫と暦 迫りくる危険

続 猫と暦   迫りくる危険



まだずるずる飲んでいるサブローを残して家に帰った。どうしてもハナビィたちのことが気になるのだ。
相変わらず玄関には三匹が並んで待っていた。
そして驚いたことにはそのほかにポックルがいたのだ。
以前はカタツムリを頭に載せた蛙だったが、こんどはこの世界ではないは別の世界の生き物、ポックルだ。
「びっくりされたことでしょう。どうにも気になることがあって、参上いたしました。長老たちからの指示でして」
居間の食卓テーブルで僕たちは向かいあった。ハナビィはテーブルの上に、マチスとアースは椅子に、ポックルは僕の前に座っている。
「それで、気になることとは、なんですか?」と僕は聞いた。
「ワタシたちの世界からはこちらの世界が見えるのです。それで、どうも最近様子がおかしい。今度の一件にあなたが関与しているのではないかと警察当局が疑い始めているのです。最後の蛙たちの移動の際、監視カメラにあなたが映っていた。公安警察のリストにあなたが載っているのはご存じですよね」
ポックルのこの問いに黙って頷いた。
学生時代のことだった。学生運動の渦中で僕はある過激なセクトに所属していて、デモの最中に機動隊に殴られて気を失い逮捕、拘留されたことがあった。
その後、セクトは内部分裂と内ゲバを繰り返し僕は危うく命を落としそうになり逃走し、何年もの間この国と外国のあちこちを放浪した。
過激派のメンバーとして公安のブラックリストに僕の名前があったとしても不思議ではないけれど、それも遥かに昔のことで四十年以上の歳月が流れている。
「警察があなたを疑い始めたことが発端で、政府は先の原発撤退を見直そうという動きを見せています」
「どのへんまで僕のことが分っているのだろう?」
「ここが突き止められるのは時間の問題じゃないですか」
ポックルは心配そうに言った。
ハナビィ、マチス、アースたちも一様に不安そうにしている。
「お養父さん、逃げよう」
ハナビィが言ったのでビックリした。また話ができるのだ。
「逃げると言っても無理だろう。逃げ切れない」
「穴があるから、そこから逃げようよ」
アースが言った。
「また、穴ができたのか?」
ハナビィたちは一斉に頷く。
穴があればどこへ行くかは別にして過去には遡れるだろう。一刻の猶予もならない。ポックルに聞いた。
「長老たちの考えはどうなんだろう」
「長老たちも身を隠すことを勧めています。それを伝えに来たんです」
選択の余地はないようだ。急いで荷物をまとめるしかない。
使っているノートパソコンとモバイル、あるだけの現金(そうたいして無かったが)、携帯電話、着替えを少し、ハナビィたちの食事などをリュックと鞄に詰めた。
そして押入れの戸を開けて積まれてある日めくりの暦を動かす。
そこには、また穴が僕たちを待ち受けていた。
ハナビィとマチスを僕の肩に乗せ、アースは抱きかかえて穴の中に飛び込んだ。
背後から玄関のチャイムの音が追いかけてくるのが聞こえたのは空耳だったのだろうか。
宙に漂いながら考えていた。
目指す時と場所は心の中にある。その先のことはそこに着いてから決めよう。

 再び穴の中に

目には見えない微粒子のようになった僕たちはやがて目的の地に近づき、また
形を整えてそこに立っていた。いつものしゅんっ、という感じで。
そこは首都からはそう遠くない南の半島の中程にある森の中に建っているログハウスの玄関先だった。ログハウスは僕の古い友人(学生時代の)の別荘で、
何度か友人に誘われて訪れたことがある。いつでも好きに使っていいと言われていたのだ。
ドアの鍵は玄関ポーチに置かれた大きなフクロウの置物の中にあった。
空を見上げると穴が揺らめいているのが見える。
「あれ、なんとかならないかな。あれじゃ人目に付きすぎる」
ハナビィに言うとハナビィは穴を見上げてふっと息を吐きかけた。
穴はみるみるうちに小さくなりやがて米粒ほどになってそれが、空に浮かぶ
雲なのか、または染みなのか分らないようになったのだ。
僕たちはログハウスの中に入った。
しばらく人が入らなかったようで、空気は澱んでいたが、思ったよりも掃除が行き届いている。冷蔵庫を開けると冷凍庫に十分な食料がある。
キッチンの収納庫にも保存食品があった。
テレビを付ける。僕たちは一週間前に遡っていた。
アースを先頭にハナビィとマチスたちは新しい宿泊場所の探索に取りかかっている。
取りあえず自分たちの居場所を確認しなければ落ち着かないのだ。
僕は書棚に置かれているウイスキー、バランタインの27年ものをカットグラスにたっぷりと注ぎ込んで、喉に流し込みソフアーに身体を沈めた。
さて、どうしたものか。当面の危機は脱したとはいうものの、ここにいつまでもこうしていることは出来ない。
いろいろ考えているうちにうたた寝をしてしまった。
森の冷気が部屋に侵入して僕たちを取り囲み始めている。
ハナビィたちもソフアーに三匹寄り添って眠っていた。
つかの間の眠りだったが、それでも幾分か力が漲ってくるように思える。
老いた肉体にかつての闘争心が甦り権力に対する憤りがふつふつと沸き起こる。


















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[ 2012/01/13 14:30 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)

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