続 猫と暦 サツキさんだって




続 猫と暦 サツキさんだって


サツキさんだって人にはうかがい知れない人生の暗闇を背負っている。
2年ほど前の桜の花が散る頃だった。
その夜「コネコネコ」は九時頃にはもう僕以外の客はいなかった。とりとめもない話を肴に焼酎の梅割りを呑んでいると、
店の引き戸が開いて若い男が入ってきた。
いらしゃいませ、という言葉を途中で呑み込んだサツキさんの表情が固まった。
男は椅子に座るでもなく、無言で立ちつくしサツキさんを睨むように見ている。
サツキさんはカウンターの中から店に出てその若い男を外に連れ出した。
ややしばらく経ってサツキさんがふらふらと戻ってきた。
そして、暖簾を仕舞い込み看板の灯りを落としてカウンターの中には入らずに僕の隣に座った。しんと、「コネコネコ」の店内は物音ひとつしない。
やおら、サツキさんは僕のコップに手を伸ばして一気に酒を飲んだ。
サツキさんが酒を飲むのを見たのはそれが初めてのことだった。
白く細い頼りないのど元が苦しみを無理矢理呑み込んでいるように動いている。
それは飲むと言うよりは煽ると言った方がぴったりする感じで、さらに、
「お酒、つくって!」と、
斬りつけるように言いながら僕の前に空のコップをカウンターにドンと置いたのである。
そっと見ると背筋を伸ばし前を向いて感情をそっくりそぎ落とした表情のサツキさんがいた。
お酒飲めたんだね、という僕の言葉にも答えない。
何杯か立て続けにサツキさんは焼酎の梅割りを飲んだ。
その間一言も言葉を発しない。
無くなるとコップをドンと置いて、
「お酒!」
「コネコネコ」の店内はコップの氷が触れあうカラカラという音と、コップを置くドスンという音が聞こえるばかりだ。
しばらくして、サツキさんの身体がぐらりと揺れ、小さな頭が僕の肩に乗った。
柔らかい髪の毛に顔は隠されていたが泣いているのは分った。
サツキさんの涙で僕の肩が濡れていった。
何も言えない。どうしたのだとも聞けない。
ぼくにできることは、ただそっとそのままにしておくだけだった。
その夜は泣きながら大酒を飲み、子供のように、
「タケさんのところに連れて行け」というサツキさんを背負って家に帰った。
それは二人だけの秘密になった。
あの夜の若い男は一体誰なのかは聞いていない。サツキさんの子供のようでもあり、あるいは恋人だったのかもしれない。過ぎてしまった日々の残滓なのだろう。
そういうものなら僕にだってどれだけあるか分らないのだ。
背負いきれなくなったら穴でも掘って埋めるか、誰か受けとめてくれる人を探すかだ。
受けとめてくれなくても、せめて涙を見せることの出来る人がいればいいのだろう。
サツキさんの涙はそんなものだと思う。
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[ 2012/01/13 00:07 ] 未分類 | TB(0) | CM(4)

平々凡々な暮らしの身には、なんだかとっても深い大人の世界に思え、ドラマのシーンのよう・・・
[ 2012/01/13 09:17 ] [ 編集 ]

抒情的

おはよう~ほんのりと色っぽい描画で、きましたねぇ~
個人的には私、読みやすいなぁ。
1シーンが頭の中に浮かんできました。
様々な人間模様を期待します。 (^v^)/



[ 2012/01/13 10:37 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

greenさん。

69年も生きているとこんなことも書けるのですよ。

[ 2012/01/13 14:50 ] [ 編集 ]

Re: 抒情的

まこさん。
こんにちは。
これからどうなりますことやら・・・
乞うご期待デス。

[ 2012/01/13 14:52 ] [ 編集 ]

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