続 猫と暦



猫と暦」の続編を書き始めます。
今度は少し人間くさいものになります。
そうは言っても、主人公は猫と犬であることには違いありません。
前作の終り頃から続編を頭に浮べていました。
どんなことになるかお楽しみください。



    ハナビィとマチスとアース


尋常ではない一日が終わりハナビィとハナビィの母親のマチス、それに黒いミニュユアダックスフントのアースと共に穴を通り抜けて我が家に戻った。
既に何度も経験しているとは云うものの、穴を通過するときは落ちているのか昇っているのか、実に曖昧で時間の感覚も失われ、気がついたら押し入れの前に立っていた。
最後はしゅんといった感じの帰還であった。

家族が増えた。猫のハナビィとの生活にマチス、それに犬のアースが加わり
いっぺんに大家族になった。
押し入れの穴はその痕跡すら留めていない。
積み上げられた暦の下は固い床板があった。
マチスとアースが居なければあのことがあったことなど幻としか思えないだろう。
たった一日の間に起きた出来事だったが今はそれも
風に吹き払われる朝靄のように薄れていく。
マチスたちが来た翌日からマチスとアースの飼い主捜しが始まった。
マチスはハナビィの母親だからハナビィを連れてきた別れた妻に聞けばいいと、
連絡をしたところ友達の姉妹の従姉妹の知人の飼い猫らしいと言う
雲を掴むようなことが分っただけでそれ以上進展無しである。
当然友達もその姉妹も、その従姉妹も避難を余儀なくされて、
どこか遠い所の親せきを頼って行ったらしく、消息不明だった。
それでまず、飼い主を捜していると、ブログでさりげなく保護した猫と犬のことを書いた。
マチスとアースの写真も載せて。

いつもの生活があった。
仕事に出かけ、帰り道行きつけの居酒屋で酒を呑む。
駅前の商店街の中程にある「コネコネコ」という名の居酒屋で、
六十少し前だろうと思われる猫好きの女が独りでやっている。
若い頃はさぞかし綺麗だったろうと思われたが、若くない今でも
十分にオトコたちを引き寄せる雰囲気を漂わせているから、
それなりにお客が付いている。
常連客は大方が中年以上、百歳未満の男女で大体は老人会のごとき
様子を呈している。
あのことがあって二日経った夕暮れ時、電車を降りて踏切を渡り
、寂しい商店街を抜ける途中にある「コネコネコ」に立ち寄った。
店に客の姿はない。
ママのサツキさんが煮物の鍋の蓋を開けているところだった。
暖かい匂いがふわ~っと人気のない店に広がっていく。
「あら、タケさん、いらっしゃい」
サツキさんは鍋の蓋を閉めてほんのりと言う。
いつもの癖で細い首を少し左に傾けたサツキさんの笑顔を見るのが楽しくて
「コネコネコ」にやって来るというわけである。
飲み物は?と言うサツキさんに、
「ナマ」と答えてカウンターの椅子に腰を下ろした。
「コネコネコ」はカウンターに十人、四人かけのテーブルが二つの小さな店である。
十年ほど前にそれまで居酒屋をやっていた主が歳で店を閉めた後に
サツキさんが「コネコネコ」の看板を掛けた。
それから、半年ほどして仕事仲間との飲み会の帰り道に飲み足りなかったので
立ち寄ったのが始まりで、以来食堂代わりのようにして顔を出している。
サツキさんがどうしてここで居酒屋を始めることになったのか、
郷里はどこなのか、何故独り身なのかは分らない。
この土地のものではないことだけは確かである。
「コネコネコ」の常連たちは誰もサツキさんのことは知らなかった。
猫が好きだから、というだけではなかったが、ボクが「コネコネコ」の
調度品のような存在になるのには時間を要しなかった。
「三日も顔を見せないでどうしたの?心配してたわよ」
生ビールのジョッキを差し出してサツキさんが言う。
「いろいろあってね。人には言えないことがさ」
ビールをゴクゴク渇いた喉に流し込んだ後答える。
「そう、そう、家族がふえたよ」というと、
「えっ、彼女ができたの?」
首を傾げたサツキさんがきらっと目の奥を光らせて言った。
「ちがう、ちがう、猫が一匹、ダックスフントが一匹だよ」
「それで、留守にしていたのね。どうしたのその猫たち?」
有り体にサツキさんに話してしまいたい誘惑と戦いながら、
仕事先のお客から頼み込まれたとか、適当に話を作り上げるのは簡単ではない。
相手がサツキさんときてはなおさらのことなのだ。
「ハナビィちゃんは新参者の猫とわんちゃんとだいじょうぶ?」
サツキさんは心配げに里芋とイカの煮物をボクに渡しながら言う。
サツキさんは猫好きだけあって猫については詳しいのだ。
メスのトラ猫と白黒のパンダ模様のオス猫を飼っている。
パンダ模様のオス猫はあとから来たのだが、トラ猫がなかなか受け入れて
くれなくて大分苦労したと聞かされていた。
そんな経験の上での質問なのである。
しかも、ハナビィの気の強さはよく知っていたからなおさらのことだ。
今のところ問題はなさそうだと、里芋の煮物を食べながら答える。
カウンターの背後、テーブル席の上の棚にあるテレビが夕方のニュースを伝えていた。
送り届けられた○○町原発資料館と蛙の大群と家畜のことについて報じている。
そして、正体不明のもの達による原発廃止の脅しともとれる文書をめぐり、
様々な憶測を伝えていた。
「へんな事がおきるのね。大地震、大津波が起こったら今度は原発でしょ」
サツキさんが声を曇らせて言う。
返事をしないで居るとさらに、
「ね、タケさん、あれはいったい誰がやったと思う?」
そう聞かれても困る。
まさか「このオレだ」とも「うちのハナビィだ」とも言えない。
言ったところで信じてはもらえないだろうが。
曖昧に、さあ、何者だろうね、想像も付かないと返すしかないのだ。

そのうちに客が一人二人と入ってきてがやがや騒がしくなってきた。
経師屋のブンさんが隣に座りまたもや原発の話題になる。
ブンさんは腕の良い経師屋だ。社会派の経師屋でもある。
政治の話が好きだし、原発反対論者なのである。そのブンさんが、
「タケさんよぉ、あの建物を動かした奴はたいしたものだね。
痛快じゃないか。だって、ああでもしないと電力会社も政府も原発を
止めなかったよな」などと言う。
焼酎の梅割りを飲みながらうん、うんと頷くばかりで何とも答えようがない。
客で店がたてこみ始めたところで早々と切り上げて家に帰ることにした。
家族が待っている。お腹を空かして待っているのである。
サツキさんに帰るよと声をかけ、ブンさんにお先にと言って「コネコネコ」を後にした。
玄関のドアを開けるとハナビィ、マチス、アースが上がり框の所で待ち受けている。
「おかえりなさい」と言って。
穴が無くなってから彼らとは話が出来なくなってはいたが、
意志は通じているのである。
少なくともこちらの言うことは分っているようなのだ。
彼らの考えていることの半分くらいはこちらも分る。
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[ 2011/12/28 15:47 ] 未分類 | TB(0) | CM(1)

いよいよ続編が始まりますね。
楽しみ~~♪
[ 2011/12/29 06:35 ] [ 編集 ]

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