スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
[ --/--/-- --:-- ] スポンサー広告 | TB(-) | CM(-)

猫と暦 その十九 決定のとき

   猫と暦  その十九  決定の時




テレビは各社深夜であるにもかかわらず特別番組を流していた。二度目の警告書が届けられたことを受けて、テレビ局は送り込まれれくるとおぼしき海辺の発電所が首都の中心にある公園に現われた場合を想定した放射能汚染範囲の地図を示し、専門家の解説がされていた。
首都に人が住めなくなり国家の中枢機能は大きく損なわれるという結果がでていた。これまで、海辺の発電所の事故は遠い地方でのことであり、他人事のように生活してきた首都とその近辺の人たちにとって、最早今は他人事ではなく自分たちの頭の上に恐怖が降ってくることを感じないわけにはいかないのだった。
今更、原子力から撤退すると電力会社が言っても既に時遅しなのである。
この国の指導者たちはこの時に至っても、まだ、結論が出せないでいた。
政治家としての身の保全が第一のことで、国民の生命の安全を図ることは第二のことだったのである。
また、長いこと政権の座にあり国の原子力政策を推進してきた前政権の野党は知らぬ顔を決め込んで沈黙していた。
電力会社を始めとする経済界はカネと欲を、政治家は地位を、官僚は組織の保全を、という社会の仕組みが破綻しようとしていた。

何も決められない閣議に待ったなしの時間が迫っている。
閣僚たちはそこから逃げ出したい誘惑と戦っていた。
首相も例外ではなかった。
官房長官が目を瞑り言葉を発しない首相に、
「総理、一刻も早く結論を出して国民に声明を発するべきです。電力会社は原子力からの撤退す決定を発表しています。国としても相手の要求を呑みましょう、総理」
(なんで、こんなことになったのだ、全く、オレは運が悪い)
心の中でそのことばかりがグルグル堂々めぐりをしている。ついこの前には思いがけなく転がり込んできた首相の座に(なんて、運がよいのだ、オレは)と思っていたのは嘘のようなのである。
7時間が過ぎた。

池の会議場では生き物たちの避難について議論が交されていた。危険な所でもこの地に留まりたいという声は少なからずあった。生まれ育ったここを離れる事はできないというのである。特に年老いたものに多かった。死はそう遠くないのだからここでよい、言うのだ。
しかし、それは少数派で大方のもの達は新しい安全な土地へ移り住むことを希望していた。
「では、諸君、希望する全てのものは新しい土地へ移住することにするが、それに異議はありませんか?」
カタツムリを頭に載せた蛙が落ち着き払って言った。
「異議無し!異議無し!」の声で全会一致をもってこの件は了承されたのだった。
ハナビィと里親は池の畔の大きな樹の下でその様子を見守っていたが、刻一刻と海辺の発電所を移動させる時間が近づくにつれて段々気が重くなってきて、口数も少なくなるのである。
そんなハナビィたちのところにこの世界にはいないはずの生き物であるポックルが来て云った。
「そろ、そろ向こうでは結論がでたようですよ。行って様子を見た方が良いと思いますが」
ポックルには向こう側の様子が分るようなのだ。何とも不思議なポックルではある。
「お養父さん、念のため行ってみようよ、どうなったか気になるから」
ハナビィに同じ気持ちでいた里親が頷いた。
空に浮かんだ穴が降りてきてハナビィたちは消えた。

居間のテレビの電源を入れる。猫はは水を飲んでいる。ガスコンロでお湯を沸かし珈琲の支度をした。
午前四時になろうとしていた。窓の外はまだ暗い。
テレビが首相の記者会見の様子を移し始めた。はコーヒーカップを手にして椅子に座った。猫が膝に載る。
首相の記者会見が始まった。血色よくつやつやしてたっぷり肉の付いた首相の顔がこの時ばかりはすっかり脂気を無くして青ざめ、しきりに額に浮かぶ汗をハンカチで拭いている。
「えー、国民のみなさん」
と言ってしばらく沈黙した。普段であれば淀みなく流れ出す言葉が出てこない。
「えー、二度目の警告文書が届いていることは御承知のことと思います。先般の文書に対する我々の対応を不満としての最後通牒と言ってもいいと思います。この件に対し電力会社から政府に原子力発電からの撤退を申し入れて参りました。これを受けて政府としても慎重に検討を重ねた結果、原子力政策の見直しを決断するに至りましたことを表明いたします。
事故を起こした原子力発電所がこの首都に送り込まれるという重大な結果を招いたことは私の責任であると痛感いたしております。
国民のみなさんには、避難するに当たって冷静に落ち着いて行動されることを切に望みます」
首相に対する記者団からの集中砲火のような質問が始まった。
そこで先に電力会社が原子力から撤退する決断を下した事を知った。さて、どうするか。それでもなお、海辺の発電所を移動させるべきか、
実に悩ましいことになった。
「ハナビィ、どうする?」
猫に聞く。
「中止、中止しよ、よかったよ、アタシやりたくなかったから」
猫がが答える。
「そだよね、ボクも同じだよ。よかった、本当に」
ハナビィを抱き上げてハナビィの喉を撫でながら言う。
そして、パソコンに向かって最後の文書を作り始めた。
テレビでは記者団からの質問に顔面蒼白の首相が答えている。
「文書を送りつけてきた○○町とその周辺の全ての生き物たちなる組織とどうやってコンタクトを取るのか、またその努力をしているのか?」
と言った質問に首相は立ち往生しているのであった。

ハナビィたちはまた池の会議場にも戻ってきた。議場ではまだ避難先などについての疑問、心配なことなどが議論されていた。
カタツムリを頭に載せた蛙にハナビィが声をかける。
「議長さん、向こうの様子を見てきました。それをお知らせしたいのですが」
それに応えて議長が、
「諸君、議論の最中ではありますが、ここでハナビィさんから最新情報のおしらせがありますから、お聞き下さい」
と言う。
今まで演壇の岩の上で意見を述べていたタヌキがそこを退きハナビィに席を譲った。
「みなさん、嬉しいお知らせがあります。向こうで電力会社とこの国の政府が原子力を止める決定を下しました。海辺の発電所のことはともあれ、もう二度と同じような事故が起きることは無くなりました。
それで、あの発電所の移動ですが、中止しては、と思うのですが、いかがでしょう?」
満場の生き物たちから喜びの声が上がり池の水は沸騰したかのように波立つ。
しばし勝利の喜びに沸いていた議場に向かって、議長が言った。
「諸君、これは我々の勝利である。ここに集う全ての生き物たちが願った平和で安全が約束されることになった。素直に喜ぼうではないか、最早海辺の発電所を人間たちに送り届ける必要は無くなったと思うが」
「そうだ、そうだ、送るのは止めよう!」
賛同の歓声があがる。
会場の騒ぎが収まるのを待ってハナビィが続ける。
「みなさん、それで、次ぎに皆さんの新しく棲むところですが」
と言ったとき、この世界にはいないはずの生き物のポックルが、
「ボクたちの棲んでいる所に行きませんか。北の国で少し寒いけれど、
良いところですよ。長老たちも喜んで皆さんを迎えると言っています」
と言うと、里親がそれに続いて、
「ポックルさんの提案と共に私の考えも聞いてください。
確かに人間たちは私たちの要求を受け入れて原子力の使用を止めるといいました。しかし、人間というものは実に弱い生き物です。
時間が経てばこの事を忘れてまた愚かなふるまいをするかも知れません。
それは私が人間であるからよく分るのです。
そのうえで、私は皆さんにお願いしたいのです。
皆さんが避難する先として、今ポックルさんから申し出のあった北の国も結構でしょうが、一部でもいいから電力会社の本店と政府機関のある町の大きな公園のような場所で暮らして欲しいのです。
私は今度の事がこれから訪れる未来のために忘れ去られないためにも、○○町原子力資料館はそのままに、そして、被災したこの地の生き物たちの棲むところとして人間の心に留めるようにできたらと、思うのです。
都会で暮らすことは難しいものは北の国へ、そして、そうではくて都会で暮らしても良いと思うものは都会でというのが私の願いです」
「それで、向こうの世界の人間たちに、このようなものを書いてきました。
読み上げますので聞いてください」
里親はそう言うとポケットから一枚の紙を取りだして読み始めた。

<告>

幸いにして我々の要望が受け入れられたと判断したので、原子力発電所の建屋の移動は取りあえず見合わせることにした。
しかし、まだ、すっかり不信感が払拭されたものではない。
よって、以下のことを要求する。

一、 既に移動させた○○町原子力資料館はそのままに保存し取り壊してはならない。なお、この資料館には今回の原発事故の詳細なる資料を展示することを求める。
二、 避難生活を余儀なくされている人々にはさらなる手厚い保障と援助を要求する。
三、 人間は避難したが残された生き物たちはそのままである。その生き物たちの一部は原子力発電所の異動先に予定していた公園とその周辺に送ることした。よって、それらの生き物たちに手厚い保護がなされることを要求する。牛や豚などの家畜は速やかに受け入れ先を探されたい。
四、 最後に今回の出来事を未来に伝えるためにそれを印した石碑を建てることを要求する。
以上のことを実行されないときは何時でも原子力発電所の移動を行う用意があることを重ねて伝えるものである。

電力会社とこの国の政府へ

○○町とその周辺の全ての生き物たち一同













スポンサーサイト
[ 2011/12/08 13:28 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://isoisomao.blog3.fc2.com/tb.php/563-9641c4b9







上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。