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猫と暦 その十八 二回目の警告文書



    猫と暦 その十八  二回目の警告文書



うららかな春の光が降り注ぐ公園の築山のような花壇の傍にハナビィと里親は帰ってきた。そこからは池が見渡すことが出来る。池の周囲には更に様々な生き物たちが姿を見せていた。会議が始まった頃は参加するものは池を半周して陣取っていたが、今は一周しなおその背後にも座っていて、まさに円卓会議の様相を呈している。
おそらく、この町だけではなく人影の絶えた隣接する町や村からも来ているのだろう。互いに争うこともなく神妙な様子で実に整然として幼い子どもたちや
年寄りをいたわりながら会議の再会を待ちわびている。
カタツムリを頭に載せた蛙がハナビィと里親の姿を認めて、
「ごくろうさまです。皆お帰りを待っていました。むこうの様子を聞かせてください。」
蛙は少し丁寧な言葉でハナビィに発言を要請した。
ふわりと演壇の岩に飛び乗り池の周りを一瞥したハナビィは口を開いた。
「皆さん、お待たせしました。ただ今戻りました。
むこうに様子をお知らせします。アタシたちの願いは無視されました。
とても、残念なことです。
この結果先刻皆さんが決めたように海辺の発電所を電力会社の本店と国の政府があるところに移動させることにします。
改めて、皆さんにお聞きしますが、それでいいでしょうか?」
ハナビィの言葉を受け議長の蛙が、
「ハナビィさんの報告によると人間たちは我々の要請を無視した模様です。
そこで、先ほど我々は人間たちに海辺の発電所がどれだけ恐ろしいものであるかを認識して貰うために、それを送り届けようと決議したが、再度、それでよろしいのかどうかを問いたい。決議通り実行することでいいですかな?」
しばし、静寂が議場を支配したがそのあと、
「賛成、賛成、決めたとおり実行、実行」
という声が地鳴りのようにゴオゴオ鳴り響いた。

まだ、政府の公式な発表はなかったが、既にマスコミに漏れた警告文書はテレビの特別番組で各社が一斉に報じていた。
警告文書と○○町原子力資料館を送りつけてきた○○町全ての生き物一同なるものがどのような組織なのかそれぞれ勝手な解説をしていたが、その様子を池の会議の参加者が見たらきっと腹を抱えて笑い転げたことだろう。
あるコメンテーターは海を隔てた半島の独裁国家の仕業ではないかと言い、
また元警察庁幹部は新手の国際テロリストの犯行に違いないとも言う。
いずれにしても、時空を越えて移動できる手段、タイムマシンのようなものを
持った者が我が国の安全を脅かしているのだというのが、大方の見立てのようであった。
しかし、タイムマシンがあると言うことは誰も信じていなかったので、馬鹿馬鹿しいただの脅しだと決めつけていた。
ただ、首相がこの文書を公表しなかったことに対してはどのマスコミは厳しく批判していた。
それも、第二の警告文書が届けられるまでのことであるが。

日付は変わって午前零時ちょうど、電力会社の本店の脇に鎮座した○○町原子力資料館のエントランスの前に防護服を着てマスクをした男が降ってきた。建屋の周りを警戒していた警察官や警備員たちは皆防護服にマスク姿で、しかも建物側には注意を払わず道路側に向かって立っていたので同じ防護服姿の男がドアに一枚の紙を貼ってまた姿を消したことを誰一人気付くものはいなかった。
10分経った頃、民間のテレビ局の入り口に立っている男がいた。男はキジトラ模様の猫を抱いていた。深夜だというのに不審に思った警備員が近寄ると、一通の封書を渡した。警備員が封書に視線を移し、また顔を上げたときにはもう男はそこには居なかった。忽然と姿を消していた。警備員が男の顔を覚える猶予は与えられていなかったし、もし、記憶に留めようとしても何ら特徴の無いどこにでもいるただの年寄りとしか覚えていなかっただろう。
封書の宛先は○○テレビ局御中とあり裏の差出人は○○町の全ての生き物一同とお世辞にも上手とは言えない字で書かれていたのである。

<告>

残念なことに我々が電力会社と政府に宛てた要望は受け入れられなかった。
よって、先に警告したことを実行することにする。
すなわち、事故を起こした原子力発電所を都心の公園に送り届ける。
しっかりと、受けとってもらいたい。
時刻は先の回答時刻(午後10時)から12時間後の午前9時とする。
12時間の間に周辺の住民は安全な場所に避難されたい。
なお、電力会社の社長、会長、政府の監督官庁の代表者、とりわけこの国の首相と大臣各位はその持ち場を離れてはならない。
どこへ逃げようともあなた達の行くところに原発はついて行くであろうことをここに明確にしておく。
これは過去に原発の推進に関わった全ての人間と組織に対する警告であり
現在稼働中の原発を有する他の電力会社に対する警告でもある。


この国の政府と電力会社へ


○○町とその周囲の全ての生き物一同


今度という今度は政府も電力会社も警告文書を知らなかったと、とぼける訳にはいかないのである。残された時間は9時間しかなかった。
○○町原子力資料館に残された文書はすぐ発見されて電力会社の社長らに届けられた。また、そのコピーは監督官庁の大臣へ送られた。前回とは違い今回は同時にテレビ局に届いていたから、最早、絶体絶命と言えた。
首相官邸では何も決めなかった閣議の続きが開かれていたが、今回はとにかくこの町に原子爆弾が落とされるようなもので、しかも、その原因はそこに居並ぶ大臣たち、さらにはそれを束ねる首相が最初の警告書の要求を受け入れていれば起こらなかったことであるから、全員の顔が青ざめ目が泳いでいるのも仕方がない。
「まずは、周辺市民の避難を呼びかけなければなりません。最悪の状態を想定して国の行政機関を移動させております。国の重要人物並びに政府の要人は一部既に飛行機で関西、中国、九州方面に移動完了しました。
既にテレビでこの文書が報道されたのを受けて、市民の避難が始まり交通渋滞、交通危難の混乱が始まっています」
防災担当大臣が発言した。
「原発建屋の異動先はすぐ傍の公園になるものと思われますが、その際必要になる防護服、マスク等が不足しています」
原子力担当大臣が続ける。
「除洗要の資機材も間に合いません。この際何とか相手と交渉して、要求を呑み最悪の事態を回避する努力をすべきと思いますが」
若い原子力担当大臣は前回の閣議での、警告文書の要求を無視するということに対して最後まで決めかねていたひとりであった。
首相は何も言わなかった。じっと目を瞑ったままである。
「しかし、交渉すると言っても相手が何者か分らないではないか。連絡を取る手段がない。」
別の大臣が言う。
「何はともあれ、一刻も早く国民に向かって総理が声明を発表するべきです」
官房長官が言う。
それでも首相は目を瞑ったままだった。何かをじっと考えているように見えた。
が、その実何も考えていなかったのである。答えを用意してくれる優秀な官僚は最初の段階でこの町から逃げ失せていたのだ。

電力会社の本店で記者会見が行われていた。会長、社長、副社長最高幹部が記者会見場に姿を現した。
ずらり並んだテレビカメラの前に電力会社の社長らは深々と頭を下げた。
そして口を開いた。
「今回このような事態を招き国民の皆様に多大のご迷惑とご心配を与えましたことをここに深くお詫び申し上げます。
この事態の根本原因はまさに弊社の原子力発電所事故にございます。そして、今日まで弊社といたしましては出来うる限りの対策を講じて事故処理に努めてまいりました。しかるに、それでは十分ではない、また弊社の原子力発電に対する方針はならぬというお考えの方たちがこのような要望を示されたものと、
理解しております。
したがいまして、先程来取締役会において長時間検討を重ねた結果、弊社といたしましては今後原子力発電から撤退することを決定いたしました。現在稼働中の原子炉も順次停止、廃炉いたします。
このことによって国民の皆様には電力の不足によるご迷惑をおかけいたしますが、弊社といたしましては最大限の努力をして他の方法による電力供給を探って参りますので、ご理解ご協力賜りますよう心からお願い申し上げます。」
額の汗を拭いながら社長は文書を読み上げると、おーっ、という声が上がった。
まず、政府の方針が示される前に民間企業がギブアップした瞬間だった。
まだ声明は続けられた。
「原子力利用について、そもそも我々電力会社は当初懐疑的でした。技術的にも未完成なものであると同時に、リスクが大きかったからです。
それがなぜ?とおっしゃるでしょうが、それは国の政策には協力しなければならない立場に我々があったからです。全て国が悪いとは申しません。
原発事故を招いたのは我々でありその責任は弊社にあります。
今、私の言葉をお聞きになっているかも知れない、いや是非聞いていただきたいお方、原子力資料館を動かし、この文書を送ってきたお方にお願いいたします。弊社は全面的にあなたの望むところを受け入れます。
ですから、お願いです。原発建屋の移動だけは許してください。お願いいたします。」
電力会社の社長たちは立ち上がり深々と頭を下げた。
夜はまだ明けていなかったが、6時間が過ぎた。












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[ 2011/12/06 16:40 ] 未分類 | TB(0) | CM(4)

う~~~~ん、飛び散った放射能のことを「無主物」なんて言っちゃう東電もさすがにこればっかりは知らんぷりはできないようですね。
それにしてもこんな状況じゃなければ猫を抱いてタイムトラベルは魅力的ですね。
そういう絵が描きたくなってきます。
[ 2011/12/07 15:34 ] [ 編集 ]

それでも首相は目を瞑ったままだった。何かをじっと考えているように見えた。が、その実何も考えていなかったのである。・・・・この箇所、可笑しくて可笑しくて
朝から、笑ったので気分がいい1日を過ごせそうです。
山猫軒さん、有難う~♪
[ 2011/12/07 23:07 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

TSUさん。
物語のようにはいきませんね。
東電も裁判官も最悪。

猫を抱いてタイムトラベル、絵を描いてください。
ぜひとも。


[ 2011/12/09 00:06 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

トパーズさん

なんとなく、そんな風に想像してしまいました。
昔彼と会談した時のことを思い出して。

[ 2011/12/09 00:08 ] [ 編集 ]

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