猫と暦 その十六 二つの会議



今日の東京新聞 こちら特報部
「防潮堤防災なぜ過信」デスクメモから。


「人は自然を支配でき、それが生産力を増し、幸福を生む」
という近代主義は3・11で破産した。
防潮堤もさることながら、原発はそんな錯誤の代表格である。
謙虚に反省し、方向を転じればよいのだが、目先のカネや地位に
しがみつく人たちがいる。人の脅威は自然ではなく、
人自らの欲なのだろう。






=この世界にはいないはずの生き物=の名前はポックルに変更しました。 


    猫と暦 その十六 二つの会議
  



ハナビィと里親は再び池の畔に帰ってきた。原子力資料館が消えた後また会議場に移動していた生き物たちは一匹と一人をみとめると、歓呼の声で迎えるのであった。明るく晴れた空には穴が浮かんでいた。
池の畔にある大きな樹木の影が少しだけ東に傾いている。
ハナビイと里親がカタツムリを頭に載せた蛙と始めて会ったときには太陽は東方向にあった。今は正午を過ぎたぐらいなのだろう。
この池の周りの時間と穴の向こう側(里親の家)とは時間が随分違うように感じられる。○○町原子力資料館に貼ってきた文書には、回答期限を6時間後と書いてきたが、向こう側の世界の6時間後はこちらでは何時になるか分らない。
時計も携帯電話も持っていないから、時間を知ることができないのだ。実にうかつなことであった。
里親がどうしたらよいかと思い悩んでいると、傍らにこの世界には居ないはずの生き物ポックルがすっと、現われた。立派な髭を更に立派に見せようと髭を撫でて立っている。
「おや、おや、お困りのようですね。そもそも、人間の時間と他の生き物たちの時間は違うものなのですよ。この池の周りの時間はとてもゆっくり進んでいるように感じませんか?会議はずいぶん長いことやっていますが、まだ少ししか時間は進んでいませんね。多分この樹の影が演壇の石の上に届いた頃が6時間後になると思いますよ」
事も無げにこの世界には居ないはずの生き物、ポックルが里親に助け船をだしたものである。
これで悩み事の一つは解決したが、まだまだ越えなければならない事が沢山あって、里親の悩みは尽きない。
ハナビイにはそれが十分に分っていた。

カタツムリを頭に載せた蛙が里親の腕の中にいるハナビィに言った。
「ハナビィさん、それで首尾は上々だったのでしょうね?」
「はい、思ったより上手くいきましたよ。本当に」
ハナビィは二度三度瞬きして答えるのだった。
「それで、次はどうしますかな。あちらからの返事待ちということですか」
これは池とその周りを埋め尽くした生き物たちの声でもあった。
「そうですね。しばらく待ちましょう。それまでの間に、相手がなんら答えをよこさなかった事のことを考えましょう」
ハナビィの里親がハナビィの背中を優しく撫でて言った。
「それがよい、時間は無駄にしない方が良い」
議長の蛙は議場の生き物たちに向かって、
「満場の諸君、ただ今ハナビィさんと里親が無事帰還しました。移動試験は成功しました。よって、先方、電力会社とこの国の政府からの返事を待ちますが、
その間我々は我々の要求に相手が応えなかった時のために協議を行いたいと思います。おのおの思うところを述べてください。ただし、簡潔に願います」
と呼びかけるのである。
またしても、様々な考えが述べられた。その度に無数の生き物たちは賛意を表わし、また次の意見にも耳を傾け、不明な点があると質問し、それに発言者は丁寧に答えるということが粛々と行われた。ヤジを飛ばすものなどは全く無かった。
幼い子どもを連れた山羊が言った。
「もし、人間たちが私たちの要求を聞いてくれなかった時は、あの海辺の発電所を電力会社の本店のある所に動かすと言うことですが、そこには人間たちが大勢居るのですよね。その人たちには何の罪もないのですから、とてもひどいことをすることになるのではと心配です」
この言葉に議場の生き物たちはしんとして、一様に考え込んでしまった。
「避難する時間を与えたらよろしい」
声の主は年老いた亀だった。
「逃げるだけの時間の猶予をやればいい。我々は逃げることもできなかった。
せめてもの思いやりと受けとめて欲しいものだ」
そして続けた。
「ハナビィの里親さん、あんたに聞くが、あの発電所が無くなったとしても、<目には見えない小さな危険な物>はその跡にもここにも残るのだろうな?
ただ、もう増えることがないわけだが、ここに暮らす我々はその影響を受け続けるのは避けられぬと、そうかな?」
「そうです。そのとおりです。原子力発電所がなくなっても、放射能は幾万年も残るでしょう。周りの土地や水はすっかり汚染されてしまっていますから」
里親は年老いた亀に答えた。
「アタシもそれを最初から心配していました。本当は海辺の発電所をどこかへ動かすことではなく、ここに集まった全ての生き物たちが安全で綺麗な場所に移動することを考えていました。
そうしできたら良いなと思っています。
原子力をどうするかと言うことは人間たちの判断に任せるしかありませんが、
きっと、いい方向へと向かってくれると信じましょう」
ハナビィはしっかりとした口調で話し終えた。
万雷の拍手が起きた。手を叩けないものは水面を、あるいは草の葉をさわさわ鳴らした。

「みなさん、海辺の発電所を動かすにあたって、大きな問題があります。」
ハナビィの里親が口を開くと、
カタツムリを頭に載せた蛙はぎょろりと目を動かして言った。
「それはどういったことですかな?」
「あの発電所を動かすためにはハナビィと僕があそこに行かねばならない。
さっきの建物の時と同じように。
発電所は厳重な警戒態勢にあり、外部から侵入するのは極めて難しい。
それと同時に高い値の放射能があるから、とても危険なのです。
知ってのとおり、防護服とマスクは必要になります。
とにかく、あの敷地に入らなければ何も出来ないのです」


○○町資料館が電力会社本店の隣に現われてから4時間が経過した。
残された時間はあと3時間、未だに結論は出ていなかった。
首相官邸では再度閣議が開かれ、外務大臣から報告があった。
「先ほどアメリカ合衆国の国務長官から連絡が入りました。
日本からの情報では判断に苦しむからこの件に対してアメリカとしては関知しない、と言う内容の返事であります」
「付け加えると、アメリカ大使館は警戒態勢に入った模様です」
「勝手にしろ、ということか」
憮然とした表情で首相が呟き、原子力担当大臣に聞いた。
「その後の様子はどうなっていますか?」
「当該原発の状況はなんら変化ありません。平常通り作業は進んでいます。
突然現われた原子力資料館についても捜査しましたが、何も分りません。
放射能レベルは非常に高い値にありますので、今後どのように処置するか現在検討中であります」
「総理、いかがいたしますか、そろそろ結論を出されたほうがよろしいのでは?」
官房長官が言ったのを受けて、首相が
「では、この文書の要求を拒否すると思うものは挙手を願います」
と言うと最初は半数ぐらいの手が挙がったが、ぱらぱらと手が挙がり、
最後には全員が拒否となった。
「テレビの会見はいかがいたしましょう?」
官房長官が聞くと首相は、
「文書のことは伏せて、異常な現象で理解が出来ない。目下捜査中であるから、いたずらにあわてずに行動するようにと言っておくとしよう。」
と言うと、
防災担当大臣が、
「念のため最悪の事態を想定して準備したらどうでしょう?
もしものことがあります。ないとは思うが・・」
というと、
「では、そうして下さい。ただし極秘に」
と首相。
閣議はかくして終了となった。首相官邸を後にした大臣たちは密かに家族に携帯電話をかけていた。特にこの町に住んでいる家族には一番に。
残りの時間は1時間になった。
テレビでは最近めっきり報道することが少なくなっていた原発事故のその後を報じ始めていた。そして、政府の公式発表が為されない事への不審が膨らみつつあったとき、報道各社に政府から首相の記者会見があるとの連絡があった。
1時間後に首相官邸で行われるとのことであった。


















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[ 2011/12/04 18:53 ] 未分類 | TB(0) | CM(2)

案の定。政府は、情けない位、消極的な対応。
サムライ魂は何処へ行った??
最近の韓国政府の方がまだずっとましなように
思われるけど?
[ 2011/12/05 03:50 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

トパーズさん。
きっと、このようなことになるのではと、
想像を膨らましました。
全て事なかれ主義。
増税にのみ一生懸命です。
国民の生命などには考えが及ばない。


[ 2011/12/05 12:33 ] [ 編集 ]

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