猫の暦 その十三 この世界には居ないはずのもの




    猫と暦 その十三  この世界には居ないはずのもの



カタツムリを頭に載せた蛙から、問題解決の妙案はあるのかと問われてハナビィは音もなく演壇の大きな岩にひょいと飛び乗った。
そして、後ろ足で耳の裏をひと掻きしたあとおもむろに、
「はい、良い考えと云えるかどうかは分りませんが、もしかしたら、あの海辺の発電所をどこかに移せるも知れないと思っています。」
こともなげに云うハナビィの言葉に池の周りに群がった生き物たちから砂浜に打ち寄せる大波の崩れる時のようなどよめきが起きた。安堵のこえである。
池の周りが静かに落ち着きを取り戻すのを待って、ハナビィが、
「あの海辺の発電所をアタシが通ってきた穴を使って、どこか別の所にやってしまうのです。心配なのはあの大きな発電所が入るほどあの穴が大きく広がるかどうか、やってみなければ分りません。」
と言うと、またもやどよめきが沸き起こる。
今度は失望の声が入り交じっているのであった。
池の上空に浮かんでいる穴は生き物たちの騒ぎに応えているかのように、ゆらゆら揺れながら収縮を繰り返している。
云われてみれば確かにハナビィはあの穴を通って家と、この町とを何度も往き来していたし、今は里親も一緒に通り抜けたのだから、何かを運び出すことは可能なのかも知れないが、一人の人間と一匹猫が通るのと、巨大な発電所を丸ごと(しかも高濃度の放射能を帯びている)移すことなど出来るはずもないと考えるのである。
それほど、海辺の発電所は大きく広かった。建屋だけに限ってみても相当な面積がある。
また、仮に穴がそれを収めたとしても、いったいどこへ持って行けばいいのだろう。移動できる期間はあの日から穴に落ちた日までの間と言っているが、移動する先は押し入れのある家のあるところになるのだろうか?
次から次へと疑問が湧いて出て、もう、何が何やら分らなくなってくるのであった。
「ですから、試しに取りあえず何か大きな物を動かしてみたらどうでしょう。
ただし、動かす先はアタシが知っているところへだけと、限られています。
けれども、アタシのお養父さんが一緒にいてくれたら、お養父さんの知っているところへは行くことができます。」
淡々と説明するハナビィの言葉ひとつ、ひとつに、池の蛙たちを始めとして集まった生き物たちが真剣に頷いたり喜んだりするのであった。

「それでは早速試してみようではないか。」
カタツムリを頭に載せた蛙が云う。
「そうだ、そうだ、やってみよう。」
の大合唱が池の上空の穴に吸い込まれていった。
「それじゃぁ、やってみましょう。」
そう言ってハナビィは演壇の岩からひょいと飛び降り、池の縁に立つ里親の所へやって来た。里親の脚に頭をすりつけながら、
「お養父さん、やってみようよ。何がいいかな。」
まるでこれから遊びに行くとでも云う風な軽く云う。
「そんな事、云ったって、本当に出来るのかなあ、そんなことを・・」
里親はまだ、疑いの念をあらわにして呟く。
「とにかく、何か大きな物を穴にいれてみましょう。」
里親は池の周りを見渡した。その池は大きな立派な公園の中にあった。公園は電力会社と政府が原子力発電所建設の見返りとして地元の町に無償で作ったものだった。公園の入り口には原子力発電所の資料館と公園管理事務所のとても
豪華で近代的な建物があった。
それも、今は無人の石の箱なのである。
その資料館を見た里親は
「ハナビィ、それじゃあ、あの建物はどうだね。あれは結構な大きさだよ。」
とハナビィを抱き上げて池の向こうに見える三階建ての建物を見せた。
「あそこなら良さそう。やってみまよう、みんなに話してみます。」
里親の腕からひらりと身を翻しハナビィはまた岩の演壇に立つ。
「議長さん、それでは試しにあそこにある大きな建物を動かしてみましょう。
あれなら、この町のものだと一目で分ります。これからやってみましょう。」
「おお、それがいい、それがいい、賛成、賛成」
方々から賛意を表わす声が怒った。
エヘン、エヘン、二度咳払いをした議長の蛙は
「ワタシもそれには大いに賛成するが、さて、どこへ持って行くのかな。
それを決めて欲しいのだが。」
と言うと、
「議長、発言を求めたい。」
と言う声がした。
声の主は兎のような、猫のような、タヌキのような、人間のような、見たこともなかった生き物だった。大きさは人間の小学一年生ぐらい、毛の色は茶色で耳は猫よりは細くピンと立っている。お腹の毛の色は白かった。
立派な髭などは猫の親類を思わせる。なかなか賢そうな生き物なのである。
「どこのどなたか存じ上げぬが、始めて見る顔だが発言を許可する。」
議長の蛙は云った。
演壇の岩に立ったその不思議な生き物は、
「えー、はじめまして、ワタシは花ちゃわんと申します。お見知りおきを。
みなさんにお目にかかるのは初めてです。というのも、ワタシはここの地のものではなく、更に北の方に棲んでおり、普段は人間の目のつかない世界にいるからです。言い方を変えるとこの世界には居ないはずのものなのです。
それが、どうしたことか、大地震のあったその後からこうしてこの世界のものたちにもワタシたちの姿が見えるようになってしまったのです。
不便この上もない話でして、いったい何故こんなことになったのか探って参れとワタシたちの長老から命じられてこの当たりまでさしかかったところ、この大集会にであったと言う次第です。
先ほどからこの会議の成り行きを見ておりまして、ワタシたちが皆様の前に姿をさらすことになった原因はことによると、あの発電所の事故によるものかもしれないと、思い至りまして、実に厚かましいとは思いましたが、こうしてご挨拶をさせていただいているところでございます。
それで、ワタシからの提案ですが発電所の異動先はそれをこしらえた電力会社の本店がよろしいのではないか、また、一部はこの発電所の建設を許したこの国の政府と政治家、そして役人たちのいるところがいいと思うのですが。
なんといっても、彼らは被害の及ばない安全な遠いところから高みの見物をきめこんでいるばかりか、話によるとこのような発電所の運転を継続させるというではありませんか。
<目には見えない小さな危険な物>を発生させている発電所が彼らの目の前に
現われたら少しはその怖さが分ると思うのです。」
本来はこの世界のものではないという花ちゃわんはそう云って演壇を退いた。

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[ 2011/12/01 10:43 ] 未分類 | TB(0) | CM(6)

トテモ オモシロイ デス
カンパイ シマショ
ニンゲン ニモ サイノウユタカナ
イイ オトコ ガ イルノデスネ♫ Ψ(`∀´)Ψケケケ
[ 2011/12/01 22:07 ] [ 編集 ]

トパーズ

↑↑↑ 同感、同感。
作者も読者も、オモロイ~♪
[ 2011/12/02 04:18 ] [ 編集 ]

同感、同感!

トパーズさんと同じく♪

発電所の行き着く先が東電本社・・・
よろしいねぇ。

ところでかわいいイラストは
ひょっとして山猫のお兄様が?
[ 2011/12/02 07:01 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

この世にいるはずのない生き物さん。
酒飲みのようですね。
なにはともあれ、お気に召したようでうれしいです。



> トテモ オモシロイ デス
> カンパイ シマショ
> ニンゲン ニモ サイノウユタカナ
> イイ オトコ ガ イルノデスネ♫ Ψ(`∀´)Ψケケケ
[ 2011/12/02 13:28 ] [ 編集 ]

Re: トパーズ

トパーズさん。
世の中には不思議なことがいっぱいあるようです。


[ 2011/12/02 13:29 ] [ 編集 ]

Re: 同感、同感!

しあわせさがしさん。
空想の世界はなんでもありですから、
楽しい!!

イラストはこの世にいないはずの生き物をみたという、
あるひとから寄せられたものです。

[ 2011/12/02 13:33 ] [ 編集 ]

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