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猫と暦 その九 牛とイタチとフクロウ



      猫と暦 その九 牛とイタチとフクロウ



「では、ワシたちはここで<目には見えない小さな危険な物>の中で生きていかなければならないのだな。」
深いため息の後でようやく年老いた亀は口を開いた。
そして、
「それで、あの海辺の発電所とやらの事故はどのくらいで収まるのだね。
<目には見えない小さな危険な物>が出てこなくなるのはいつ頃になるのだ?
そうでないと、その<危険な物>は次々と溜まって行く一方だと思うのだが。」
その問いにハナビィの里親は
「僕には分りません。聞くところによると、壊れた原子炉を処理できるのは
30年とも50年とも云われています。
今は放射能が飛び散らないように必死で工事をしているようですね。」
としか云えなかった。

「さて、諸君、これで<目には見えない小さな危険な物>がどのような事が原因でできたのか、それと、それがどのようなものであるか、また、それを防ぐ手だてが無いことが明らかになりました。」
カタツムリを頭に載せた蛙は咳払いをするのも忘れて、すっかり元気を無くしてしまった生き物たちに語りかける。
「従って、我々はこれからこの事態にどう向かいあうのかを議論しようではないか。
黙って温和しく、このまま、<目には見えない小さな危険な物>にまみれて死んでゆくのがよいのか、あるいは、違う行動を起こすべきなのか、
諸君の考えを述べて欲しい。」
「ハナビィの里親さんは下がってよろしい。ご苦労様でした。また質問に答えて貰うからそのつもりでいてください。」
そう言われてハナビィの里親はホッとした表情を浮べ額の汗を拭いながら、
池の中に突きだした岩から退いた。

「だれか意見のあるものは・・」
言い終わらないうちに、
「ある、オレに云わせてくれ。」
という大きな声がした。それは今まで力なく座り込んでいた黒い牛だった。
大きな黒い牛は岩の上に前足を載せて立ち上がった。
「牛クンの発言を許可します。」
議長の言葉を聞きながら黒い牛は息を整え、じっと眼を閉じ、そして開いた。
「オレたち牛は人間に飼われ、あるものは乳を搾られ、あるものは人間の胃袋に収まるように育てられてきた。ただ、ただ、人間たちのためにこの世に存在していたのだが、
この厄災でいとも簡単に捨てられ、多くの仲間は飢えて死んでしまった。
遅かれ早かれ死はすぐそばにあるとはいうものの、これはあんまりではないか。
地震とか大津波とかは自然のなせるところだが、この発電所の事故は違う。
大地震が起きるとか、大津波がくるとかいうのは、ここにいる多くのものたちも感じとっていた。それはそう怖れることではなかった
。安全なところに逃げれば良いだけのことだから、それで命を落としたものはそう多くはなかったはずだ。
しかし、<目には見えない小さな危険な物>の場合は違う。
これは人間たちが引き起こしたことなのだ。ワシたちには予測できないことだった。
だから、ワシは人間たちにきちんと落とし前をつけて貰いたいと思う。
どんな方法かは見当も付かないが、そうでもしなければ飢えて死んでいった仲間たちが浮かばれない。」
大きな黒い牛は言い終わるとまたガックリ膝を折って座り込んでしまった。
池の周りのあちこちから、
「そうだ、そうだ、牛の云うとおりだ」
と言う声が沸き起こるのであった。
と、続いて、
「アタシの意見を聞いてちょうだい。」
発言を求めたのはイタチのオカミさんだった。
「アタシは牛さんの考えには反対です。
確かに人間のやったことは許せないけれど、こんなことは今に始まった事じゃないわ。
これまで人間たちは自然のなかの動物や生物にどんな酷い仕打ちをしてきたのか、
みんな、知ってるでしょ。だいいち、アタシ達に何ができるというのよ。
云っている牛さんだって、もうヨレヨレだわ。
<目には見えない小さな危険な物>がある限り人間がここに戻ってくることはないことが分ったから、ここはアタシ達のものになったも同然よ。
<目には見えない小さな危険な物>が身体に害があると言っても、アタシ達はまだ何ともないわ。牛さん、豚さん、鶏、犬さんたちが死んだのも人間たちが食べ物をくれなかったからで、それ以外の生き物はいつも通りに生きている。
それどころか、人間が居なくなって暮らしやすくなったというものだわ。
だから、アタシはこのままでいいと思います。」
イタチのオカミさんはフンっといった感じで話を終えた。
また、あちこちから、
「そうだ、そうだ、今のままで良い、賛成!賛成!」
という声が沸き起こるのである。
どちらの言い分にも理があるようにも思えたが、現状維持でこのままでよろしい、その意見が大勢を占めようとしていた。
人間の社会も動物やその他の生き物たちの世界も、現状維持、事なかれ主義とうものは共通なのであった。
「議長、その意見には異議がある。」
池の畔にたつ一際高い一本の樹木の梢から声が降ってきた。緑色の葉がびっしり重たげに揺れるその中から一羽の白い大きなフクロウが姿を現した。
「発言を許します。ではフクロウくん、どうぞ意見を述べてください。」
白い大きなフクロウの姿を見た瞬間、思わず池に飛び込んで逃げようかと身構えたカタツムリを頭に載せた蛙は青くなったり、赤くなったり、焦げ茶色になったり、
忙しく冷や汗を流ながら、うわずったような声で言った。
普段であれば蛙などはフクロウにとって格好のご馳走なのである。
しかし、その日は全ての生き物たちは普段とは違って、捕食するものと、されるとものとの間には暗黙の休戦協定が結ばれていたのである。
そのために、ハナビィが生き物たちに長い時間を費やして説得を続けてきたことを知るものは少なかった。勿論、カタツムリを頭に載せた蛙は承知していたのだが、悲しいことに身体に染みついた本能と言おうか、恐怖というものはそう簡単には無くすることはできないのである。
蛙にとっての天敵である蛇にしても、議長席の葉っぱの脇にある木の枝にぐるぐる身体を巻き付けて池を埋めた数え切れないほどの蛙たちをじっと、見ているだけで、この日ばかりは獲物としてではなく同じく生きる物として接しているのである。

「今、イタチのオカミさんが<目には見えない小さな危険な物>があっても今現在なんでもない。生きていると言ったが、死んだものも、病気になったものもいるとういうことを話そう。
あなたたちも知っての通り私たちは夜暗くなってから狩りをする。
いつも狩りはそう簡単にはいかないことは御承知のとおりだ。」
白い大きなフクロウがそう言うと思わず背筋がぞわっとして、蛙たちは一様に落ち着きを無くしてしまうのである。

それを察してか白い大きなフクロウは愛嬌のある目玉をクルルと回して、
「これは失礼いたした。今日、狩りは取りやめですから、ご心配なさらぬように。それで、その簡単ではない狩りがあの事故の後発電所の近くでは容易になった。
つまり、獲物は弱っていたり、死んでいたのだ。若いフクロウたちはそれを危ぶみもしないで巣に持ち帰り子どもたちや孫たちに与えてしまったのだ。
しばらく、そんな日が続いたが、最近になっておかしな事が起き始めた。
まず、赤ん坊が弱り、そして死んだ。次ぎに子どもたちが弱って動けなくなった。発電所の近くから持ち帰った獲物を食べたものは大方具合が悪くなり死んだものもいる。特に子どもたちはひどかった。
私のような年寄りにとっては獲物がいかに沢山でも、遠くまで行くのはつらいことだったから、森の中でいつも通りの狩りをしていただが、それが幸いしたのだ。いま、こうしてここで話が出来るのもそのおかげなのだと思っている。
ここで、<目には見えない小さな危険な物>のことを知り、発電所の近くにいた獲物はそれに侵されて死んだのだろうと想像できるのだ。
イタチのオカミさん、あなたのお腹の中には赤ん坊がいるようだが、その赤ん坊とて<目には見えない小さな危険な物>から守れるとは私にはとても思えない。私の孫も無事ではなかったからね。」
白い大きなフクロウは悲しみを表わすかのように大きな羽を空に向かって開いた。
イタチのオカミさんはその白い大きなフクロウの話を聞いて急に気分が悪くなって、自分のお腹をかばうように身体を丸くした。










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[ 2011/11/23 16:37 ] 未分類 | TB(0) | CM(6)

目に見えぬもの

つい先日のこと、近くで化学工場が爆発。
一時、有毒ガスが発生し外出禁止区域に指定されました。
目に見えないし匂いもないし、日常なんら変化がないのに、窓も開けられななんて不思議な気がしました。
そして、仕事はあるし生活はあるし
言ってられないって感じで通常で過ごしました。
たった一日の事です。

とんでもない事になった地域の方々の心痛のほんのほんのほんの欠片程度の経験でした。
[ 2011/11/23 22:05 ] [ 編集 ]

Re: 目に見えぬもの

みかんさん。
そうか、山口県の東ソーとかいう化学工場の事故、
みかんさんの近くでしたか。
恐ろしい話ですね。
目には見えない小さな危険な物ほど怖い物はありません。


[ 2011/11/23 22:26 ] [ 編集 ]

もし、うちの猫たちに説明してくれと言われたら........と思うとすごく悲しくなってしまいました。
人間も動物たちとちゃんと向かい合って生きていなくてはいけないはずなのに、いつ、何を勘違いしてしまったのでしょうね。
ハナビィ.......かわいい。

[ 2011/11/23 23:13 ] [ 編集 ]

益々眼が、離せません。
次のお話が楽しみ。
[ 2011/11/24 10:54 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

TSUさん。
ハナビィは理想の猫です。マオも可愛いけれど。
動物と向き合えなければ人間とも無理です。
この物語は人間に対するお願いなのです。
六匹の猫と暮らすTSUさんなら分かりますよね。


[ 2011/11/24 20:19 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

トパーズさん。
そろそろ、物語は終盤にさしかかります。
さて、どうなりますことやら・・・
ニューヨークまで穴は行きませんが・・・

[ 2011/11/24 20:21 ] [ 編集 ]

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