猫と暦 その八 <目には見えない小さな危険な物>

      猫と暦  その八 
        <目には見えない小さな危険な物>とは




「そして、とうとう、一番怖れていたことが起きてしまいました。原子炉の建屋が爆発してしまったのです。それによって、中に閉じこめてあった放射能というとても危険な物質があたりに飛び散りました。
この放射能が<目には見えない小さな危険な物>だったのです。放射能は生物の身体に触れたり中にはいると身体の元になっている細胞という物を毀してしまうのです。空中に飛び出した放射能は空気の中に浮かぶ塵よりも、ず~っ、と、小さいので、風に乗ってどこへでも散っていきます。これはここだけではなく遥か離れた遠い所と飛んでいき行きました。
ボクの住んでいる町にも飛んできました。
勿論このあたりは沢山の放射能が降り積もったのです。
それは人間の中にも簡単に入りこむのです。人間ばかりでなく動物や生き物も同じなのですよ。それは今もなお、あの発電所から出ているようなのです。」
ハナビィの里親が年老いた亀に語りかける。
「そうか、オレはその爆発を見たぞ。ど~ん、と言う音がして、蒼白い光りが空に向かって走ったぞ。海の上を飛んでいるときだったな。」
群れている鴎の一羽がそう叫んだ。
「その<目には見えない小さな危険な物>をオレたちは浴びてしまったということなのか?」
悲痛な声で叫ぶと、他の鴎たちもあわてふためきそれはもう、大変な騒ぎであった。同時にあちこちからも、
「ワタシも見た。ボクも近くにいた。蒼い光りを浴びた。」
という声が枯れ草に放たれた炎のように広がるのであった。
ありとあらゆる生き物たちが狼狽し興奮のるつぼの中にいるようであった。

「静粛に、静粛に、落ち着きなさい。諸君、落ち着いて。話を聞こう。」
カタツムリを頭に載せた蛙の議長はいっそう緑色になったり、橙色になったりして、皆を制した。
それでも、なかなか騒ぎは収まらなかった。無理もないことなのである。
落ち着けと云われたところでそうはいかないのである。
いっそのこと、そのようなことは知らないほうが幸せだったのかもしれない。
何も知らずに、ゆっくり死を迎えられるのだから。
ただ、死が通常よりは早いか、ゆっくりくるのか、だけの違いなのである。
蛙ならば蛇に食べられるとしても、
「ああ、もういけない、食べられてしまう」
とその一瞬にそのことを認識して蛇に飲まれるのだが、これが<目には見えない小さな危険な物>となると、どこで「ああ、いけない」と思わなければならないのか、そこのところが曖昧で実に怖いことなのである。
恐怖というものはあっという間に広がる。まして、想像すら出来ない恐怖はさらに増幅されるのである。
「皆さん、すいません。驚かしてしまったようです。だけど、これは本当のことなのです。だって、知っての通りここに人間たちは居ないではありませんか。
みんな、安全なところ、とは云っても本当にそこが安全かどうかは分りませんが、そこに避難してしまったのです。
たまに見かける人間は白い防護服とマスクをしているでしょう。
本当はあなたたちもそういうふうにしなければいけないのです。」
ハナビィの里親は申し訳なさそうな気持ちを面に一杯に表わして云った。
「ということは、この、<目には見えない小さな危険な物>はここに今あるということなのか?」
年老いた亀が問うた。
「はい、そうです。あります。この池の水の中にも、草の葉にも、地面にも、
海の中にも。」
人間がそう答えると、池の中にいた蛙たちは悲鳴を上げてわれ先に水の中から出ようとし、草むらにいた兎たちはいったいどうしたものか、おろおろするばかりなのである。
「皆、静まれ、静まれ、今更騒いでもなんにもならない。騒ぐではない。」
カタツムリを頭に載せた蛙は流石に議長である。内心とても動揺していたのだが、それを押し隠して、泰然自若落ち着付き払った様子で、あわてふためく生き物たちを一喝するのであった。
年老いた亀はまた問うた。
「<目には見えない小さな危険な物>はいつになったら危険ではなくなるのだ?それと、それを消してしまう薬のようなものはあるのか?」
至極もっともな質問である。
「そこが問題でして、この放射能というものはすぐ消えてしまうものと、そうではないものがあるのです。すぐ消えないものは何十万年、僕たちが一万回生まれ変わっても足りないほどの時間がかかってようやく消えると云われています。要するに、ほとんど永久に残るということですね。」
この言葉にありとあらゆる生き物たちは打ちのめされて最早、怨嗟の叫びも、呪いの言葉さえも失って沈黙するばかりであった。

「ワシにはどうしても理解ができないのだが。どうして、そんな危険なものを人間たちは作り出したのかな?しかも、それを無害にする方法も無いのに、だよ。」
年老いた亀は深いため息の後にそう呟いた。
「それは僕にも分りません。ただ言えることは以前から原子力は怖いものだから止めようと云っていた人たちが居たけれど、僕たちも含めて多くの人間がその警告を無視してしまったということです。日々の快適な生活に慣れてしまって、こんな事故は起きないものだと信じ込んでいたのですね。」
ハナビィの里親はだれにともなく、深々と頭をさげるのだった。
もう、誰も何も言わなかった。云うべき言葉を無くしてしまったかのようであった。



    今日のニャンコ

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[ 2011/11/22 11:17 ] 未分類 | TB(0) | CM(6)

お話の語り口が、宮沢賢治っぽく
グングン引きこまれていきます。
山猫軒さん、凄~い ☆☆☆☆☆
[ 2011/11/23 10:50 ] [ 編集 ]

じっくりと

流し読みでなく
じっくりと読みました。
難しくなかったです。
ワタシも四国の動物になったつもりで
続きを楽しみに読みます。
おとなの童話
平成の宮沢賢治かな・・・
詩よりいいかも

[ 2011/11/23 10:58 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

トパーズさん
読んでいただいて嬉しいです。
宮沢賢治、そうですよ。山猫軒(注文の多い料理店)
ですからね。
今日も続きを書きます。

[ 2011/11/23 14:52 ] [ 編集 ]

Re: じっくりと

かをるさん。
ありがとう。
詩よりも良いと云われたのは二人目ですよ。
それもまた、嬉しい。
物語は半ばまで来ました。
これから、まだ続きます。
詩では表せないことを出来るのが喜びです。

[ 2011/11/23 14:56 ] [ 編集 ]

済みません・・・・あとでゆっくり読ませて頂きます。

大爆笑です。最後の写真!!
[ 2011/11/23 21:36 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

ミルフィーユさん。
あの猫、良い度胸してますよね。
顔も良い。


[ 2011/11/23 22:22 ] [ 編集 ]

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