猫と暦 その六 会議は踊る




    猫と暦 その六 会議は踊る



「みなさん、こんにちは。」頭にカタツムリを載せた雨蛙はエヘン、と咳払いをして切り出した。池と池の周囲に集まった大勢の生き物たちはそれまで、ひそ、ひそ、がや、がや、していたのを止めてしんと静まりかえり蛙の声に耳を澄ましている。空を飛んでいた鳥たちも大きな樹の枝に留まっていた。
「え~、きょうのこの集まりは既に御承知かと思うのですが、御承知でない方々のために少し説明をさせてもらいます。その前にこの会議を進めるに当たり議長の選出をしたいと思いますが、この雨蛙に、という強い要望もあるので、議長はこの、ワタクシということでいかがでしょうか?異議のあるものはいますかな。」
蛙の頭の上に載ったカタツムリの金色の殻は蛙の一言、一言に反応するかのようにきらり、きらりと光るのであった。ざわざわと池の周りで囁き交す声を遮り、蛙は言う。
「異議無し、と言うことで議長は雨蛙のワタクシに決まりました。」 まったく一方的なことではあったが、集まった生き物たちにとってはこのような会議は初めてのことであったので、異議と言うことの意味を分かっていなかったのである。蛙は強い要望と言ったが、誰が要望したのか不信に思うものもいなかった。     
「よって、小熊町とその周辺に住む動物たちによる会議の開催をここに宣言するものであります。」
蛙の言葉は重々しく響いて池の水面を波紋のように広がっていった。

「さて、この会議はここにおります猫のハナビィさんの呼びかけによるものでありますので、ハナビィさんに提案理由を説明してもらいたい。かようにワタクシからお願いいたします。」
雨蛙は目をくるりと白く反転させてまた黒目に戻し、ハナビィに前に出るように促した。ハナビィは蛙の居る樹にするするとよじ登り、池の上に大きく張り出した太い枝に腰を下ろした。そこは蛙の居る葉っぱよりも随分高かったので、
その分だけ多くの生き物たちを見渡すことができるのであった。

「今日ここにお集まりのみなさん。ようこそおいでくださいました。
こんなにも多くの仲間が来てくださるとは・・・うれしい・・です。」
ハナビィの言葉は崩れるように座り込んだ黒い牛や、やせ細った豚や犬たち、
鶏もタヌキも山羊、そのほかの幾千万とも知れない数の生き物たちにの上に流れていった。
「すでに、おもだった方たちにはお話ししましたけれど、今度の大地震では大変な厄災がアタシ達の町を襲いました。」
ゆっくり、ゆっくりハナビィは言う。
「知ってのとおり、アタシはこの町の生まれです。でも、アタシは子供の頃にここにいる里親、人間のところに預けられました。遠いまちです。大きな町です。今度の厄災をもたらした会社のある町です。」
ハナビィが里親、人間と言った時、生き物たちの視線の先の、里親はそれはもう、きまりの悪さにうつむくばかりであった。
「あのことがあったあと、アタシは偶然ここに来ることができました。それで、何度も、何度もここに来てここがどんなことになっているのかを知りました。
人間たちは皆逃げ出して誰も居ない町にです。」
ハナビィは押し入れの床に出来た穴から始終ここに来ていたのである。
よくよく考えてみるとあの日の後ハナビィの姿が見えないことがあった。仕事から帰ってきても迎えに出ないばかりか、いつも寝ている食器棚の上や、椅子の上などに姿が見えないのである。また、ベットの下にでも潜り込んで居るのだろうと気にも止めなかったが、この町に来ていたのだ。
夜中に目が覚めるといつになく疲れ果てた様子で布団の隅で眠っていた。
毎日のようにこうしてここに来ていたと言うが、どうしてなのか、分からないのである。何から何までおかしな事の連続なのだ。

「アタシはここで何が起こったかを知っていました。アタシの居る家のテレビが毎日ここのことを放送していたからです。恐ろしいことが起きていました。
それで、人間たちは皆逃げ出したのです。」
ごーっと言うようなどよめきが沸き起こった。池の水も水草もそしてなだらかな草地も樹木も生き物たちの憤りの声で震えるのであった。
「人間に害があるというのなら、わし等も無事では済まないと言うことなのか?何も変わったところはないようだが。」
年老いた亀がハナビィに向かって言った。
「目に見えない小さなものが全ての生き物の身体を傷つけるのだわ。
それは、あの海辺にある発電所から出ているのよ。」
あの発電所は原子力というもので電気を起こしていて、その電気はあちこちに送られて人間の生活を支えていました。それが地震と津波で壊れてしまったのです。」
ハナビィが海辺にある発電所を見ながら言うと、唸るような音はその方向へ流れるのであった。
「電気を起こしているといったって、ボクらには電気なんてなんの必要もないな。そのために危ないことになったと言われても迷惑な話というものだ。」
薄茶色の兎が仲間とうなずきあいながら鼻をヒクヒクさせる。
「それで、おれたちをここに集めた理由はなんなのだね。」
すっかり痩せてしまった豚が問いかける。
「それはね、人間たちが逃げ出したここに、このまま居ても良いのか、これからどうしたらいいのかを皆さんと相談したかったからだわ。」
「いずれまた、その小さい危険なものとやらが無くなって人間たちも戻ってくるのだろう?それまでのことじゃないのかね。」
と羊が言うと、
「そうだ、そうだ、それに人間が居なくなってすっかり住みよくなったよ。まあ、犬クンやネコさん、牛さん豚さんたちは難儀しているようだけれど、何、そのうちに慣れるさ。」
タヌキがそれに続いて述べるのであった。
池の周りの生き物たちがめいめい勝手に喋り始めしばしハナビィの話は中断した。











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[ 2011/11/20 22:52 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)

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