猫と暦 その五 会議の前

     
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大ボケですが、ハナビィのただ一枚残っている写真です。
生後三ヶ月、僕の誕生日のバースデーカードに手を載せています。
耳が大きく不思議な感じのとても賢い猫でありました。
ハナビィという名は八月生まれで花火大会の日に引き取ってきたから、
「花火」と。
知人の物置で生まれた野良の子どもの一匹でした。
後でほかのネコたちはすぐに皆病気で死んでしまったそうです。
そんなことからも、忘れられない猫です。
今は僕の知人のところで元気にしていると聞いています。


     猫と暦  その五  会議の前



何となく不穏な空気が池の周囲に漂い、蛙の頭に載ったカタツムリの角もグルグル回っている。頭上の穴も落ち尽きなく不気味に収縮し、空は薄い雲で覆われているのであった。
果たして、何と答えたものだろうかと逡巡している時、池を巡る曲がりくねった小径から重たげな足音と動物のゼイゼイいう息が聞こえてきた。
最初に姿を現したのは黒い牛であった。耳には黄色のタグが揺れている。
牛は疲れている様子でハナビィの前まで来るとガックリと膝を折って座り込んでしまった。
「だいじょうぶ?牛さん。」ハナビィが声をかけると黒い牛は
「もう、ずいぶん前から、満足に食べていないものですから、お腹が空いて倒れそうです。」
と言うのであった。
黒い牛は絶望のあまりに、立派な角で見えない何かに突き立てんばかりの様子なのだ。
「この人間は誰なのだ。」
怒りを含んだ眼差しで黒い牛はハナビィに問いかける。
「このヒトはアタシのお父さんよ、牛さん、だから大丈夫。」
黒い痩せた牛の乾いた鼻面にハナビィは顔を寄せて囁いた。
「人間がネコのお父さんである訳があるまい。」黒い牛が力なく言う。
「実の親じゃなくって、里親ということよ。」ハナビィは黒い牛の頬に流れる涙を舐めながら答えた。
黒い牛は納得したのか、しないのか分からないような、ぼう~っとした眼差しで蛙の大群が緑色の絨毯になって、池を埋めているのを見ているのであった。
「この牛の他に今日ここに来るもの達はまだ、おるのかな?」
カタツムリを頭に載せた蛙は不機嫌そうにハナビィに向かって、尊大なガサガサしたような声で投げつけるように言った。
そして、この言葉の後の一瞬の静寂を破って、草むらをかき分け、進んでくる小さな集団の姿が見えた。
兎たちである。兎たちは黒い牛よりも元気に見えた。
兎たちの先頭にいた少し大きい白い兎がハナビィを見てやって来た。
「何事かよく分からないが取りあえず来てみたよ。ここんところ色々あったからねェ。」そう言いながら食べられそうな草を探し出しては口を動かしているのである。ハナビィが、
「兎さん、ありがとうね、よく来てくださいました。」と言うと、
カタツムリを頭に載せた蛙は少し気をよくしながら、
「ずいぶんと集まって来るではないか。流石にオイラの威光はたいしたものであるな。」
エヘンと咳払いをしながら独り言をいうのであった。

次から次へと不思議なことの連続なのである。
池の周囲には何処からともなく沢山の生き物たちが集まってくるのであった。
すっかり衰弱した豚、まだ元気な鶏、池の中からは亀たちも、そしてやせ細った犬もいるのである。イタチの夫婦はその痩せた老犬をいたわりながら、
「ああ、世も末だねェ」なんて呟いている。
唯一人間だけがいなかった。いや一人だけ居たのである。一人だけ。
その人間はその時ほど人間であることを心底恥じたときは無かった。
それは、これから何が起きるのか漠然と察知していたからである。
そして、そこで何があったのかも知っていたからだ。
少し離れた海辺の建屋で人間が起こした出来事のことを知っていたからだ。

あのことが無かったら穏やかな春の日であったと、後の記録はそう印していたであろう。無論、人間がいることを前提なのであるが。
それほどに寒くも、暑くもなく、風はれんげ草の上に静かに優しく吹いている。
けれども、目には見えない恐怖が確かに支配しているのであった。
そして、そこに住む人々は町を捨て、家を捨て、故郷を捨て、そして飼っていた家畜や犬もネコも何もかも皆捨てて、ここから少しでも遠くへと、この国の方々へと散って行ったのである。


池の周りには沢山の生き物たちが絶えることもなく、どこからか湧いてきたかのように姿を現していた。
「では、もういいだろう、そろそろ、始めようではないか。」カタツムリを頭に載せた蛙がハナビィに言った。
どのくらいの時間が経ったのか分からないぐらいにゆっくり時間が過ぎて行く。
時計も携帯電話も何も持っていなかったから、午前中なのか、午後なのか分かりかねるのであった。
ハナビィは二度三度瞬きをし、お腹を毛繕いしてあくびをした。
猫というものは緊張し、ストレスが生じると、毛繕いや欠伸をするものなのである。だからこの際ハナビィがお腹を舐めたのは決して礼儀はずれのことではなかったのだ。
「そうね、それでは、はじめましょうか、蛙さんが議長でいいですか?」
今は池の上に張り出した梢の大きな葉の上に座っているカタツムリを頭に載せた蛙にハナビィが答えた。
その梢の葉の上からは集まった雑多な生き物たちの姿が見渡すことができた。
とはいっても雨蛙は小さかったし、緑色をしているから葉の上にいかに偉そうにして座っていたとしても、多くの生き物たちには、ただの葉っぱとしか見えないのであった。
蛙の頭の上のカタツムリしか見えないに違いなかったから、あたかもこの集会の議長がカタツムリだと勘違いしたものも多かったに違いない。
カタツムリの金色の殻が淡い太陽の光にきらきら輝き、集まったものたちの方へ伸ばした角がオーケストラの指揮者のタクトのようであった。


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[ 2011/11/16 11:46 ] 未分類 | TB(0) | CM(2)

ハナビィわかりました

ハナビィが花火からつけられたと、やっと分かりました。
それまで、なかなかハナビィが覚えられませんでした。
な~るほど。これですぐに覚えられましたよ。

さぁ この後どう話が進展していくのか?
楽しみですね。
フムフムと、毎度拝見しています。
それから、お誕生日おめでとうございます。

[ 2011/11/18 20:17 ] [ 編集 ]

Re: ハナビィわかりました

まこさん。
ありがとう。この歳になって誕生日のお祝いの言葉なんて言われても、
照れてしまいます。

ハナビィは実在の猫です。
普通の猫でしたが。
これから、物語は進んでいきます。
ご期待に添えるよう面白い展開になると思いますよ。



[ 2011/11/20 23:11 ] [ 編集 ]

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