ネコと暦 その二 不思議な穴と蛙

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      ネコと暦  その二

        不思議な穴と蛙
       


直径10センチの大きさの穴が押し入れの床を穿って開けられていた。
床下へ通じているかと思い懐中電灯で照らしてみたが床下の地面が見えない。
暗闇がどこまでも深いのである。顔を近づけ様子を探るのだが穴の正体は不明なのであった。
いったい誰が押し入れの床に穴を開けたのか、そして、どうしてハナビィ
(キジトラ模様のメスの飼い猫なのである)がその穴を隠すかのように過ぎた日の暦を一枚一枚丁寧に重ねてそこに置いたのか、腹ばいになったまま、押し入れの中で、首をひねるばかりであった。
その穴はどのくらい深いのかと、使用済みの単三乾電池を一個探し出して、また押し入れに身体を入れ、懐中電灯で穴のなかを覗きこみながら、乾電池を投げ入れてみた。乾電池はどこまでも落ちてゆくようであった。
コトンともカチンとも音が返ってこないのである。耳を穴の淵に寄せるのであるがそよとも聞こえない。まるで宙を漂っているかのようであった。
あるいは物体を吸い込んでしまったかのようでもあった。
ボールペンで穴の側面(床板の下である)を探ってみた。手応えがない。
思いの外そこから穴は広がっているようなのである。もう少し長い棒を差し込んでみた。おなじことであった。空間は広い。
思わずこの家が大きな穴の上に浮かんでる様子を想像して、ぶるるっと身震いをしてしまう。
そして、棒を差し込む際にうっかり穴の淵を指で押えてしまったときに、不思議なことが起きたのである。
穴が外側に力を加えた指先と共に広がったのだ。試しにもう少し外側に押してみた。更に穴は広がる。
しばらく見ているとす~っと、元の大きさに戻る。
あまりの出来事に、はずみで、押し入れの上の棚板に頭をいやと言うほどぶつけてしまったが痛さを忘れていたぐらいに驚きが大きかったのである。
まるで生きているようではないか。


部屋の畳に座り込み開け放たれた胡乱な押し入れを睨んでいた。
ハナビィはまだ椅子の上で丸くなって眠っている。
まさかハナビィはあの穴から出入りしているのではないだろうな?
不信が頭をもたげる。
そういえばこの間もおかしな事があった。
この家の中から一歩たり外に出ないはずのハナビィが一匹の蛙を持ってきたのだ。小さな雨蛙であった。しかもその蛙の頭にはカタツムリが乗っていたのである。まるで冠のようでもあり、ナビゲーターのようでもあった。
カタツムリの角がゆらゆらと揺れ、蛙の大きな目がパチリと閉じたり開いたりしている。
夜更けに帰った酔っぱらいの年寄りを、玄関の上がり框でハナビィと蛙が並んで出迎えているのであった。
「ビェ~」と鳴くネコと{ゲコ、ゲコ}鳴く蛙。
「おかえりなさいませ」と言ったように聞こえるのであった。
「これは幻覚である。ついに頭が変になったか。酒の飲み過ぎで錯乱状態に陥ったか。」
その晩は朦朧とする頭を抱えて着替えもせずにベットに倒れ込み、眠ってしまったが、翌朝は蛙の痕跡は微塵もないのであった。
しかし、昨夜の雨蛙と頭のカタツムリはまざまざと脳裏に焼き付けられているのだ。少しばかり悲しそうな緑色の蛙であった。
冠のカタツムリも何かに怯えているようでもあった。
幻覚にしては随分とはっきり覚えているものである。夢だったとしても。
ハナビィも普段と少しも変わらずに「腹へった」といっては鳴き、「遊べ」といっては頭をすり寄せてくるのである。


考えてみればハナビィだって変なネコなのである。第一出自が定かではないのだ。
まあ、ネコなどと言うものは大方がそういうものなのであろうが、それでも、野良ならばナントカ公園の段ボールの中とか、某商店街の魚屋の裏口とか、飼い猫ならナントカさんの三毛ネコが生んだ六匹のうちの一匹とか、もう少し立派だと(信用できないけれど)ペットショップの血統書付のアメリカンショートヘアとかある。
ハナビィの場合はどのような事情でこの家に来たのかは説明できても、その前が不明なのだ。
というのも、ハナビィは五年ほど前のある日別れた妻が突然現われて、
「あんた、ネコいるでしょ?」とうむを言わせず置いていったのである。
「いったい何処から持ってきたのか、拾ったのか、貰ったのか」
と聞いても別れた妻は薄ら笑いを浮べて答えないのであった。
「あんたに捨てられたワタシだと思って飼いなさいよ。」
とぴしゃりと言われるとただ恐れ入るばかりで痩せこけたキジトラ模様の
やたら気の強い仔猫を有難く受けとるしかなかった。
だから、この仔猫はちゃんとした家で飼われていた飼い猫の子どもなのかもしれないし、そうではなく、ただの野良の子どもかも知れないのであるが、
もしかすると飼い猫の子どもではないかと思われるふしもあった。
第一に野良猫にありがちな蚤と寄生虫がいなかった。綺麗だったのである。
トイレも一発で覚え、粗相をしたことがない。食べるものも決まったドライフードだけを食べるのである。
食卓のアジの干物などには見向きもしない。良いとこのお嬢さん然としたところがまた面白かった。
とにかく別れた妻の贈り物なのであるから粗末にはできないのである。



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[ 2011/11/09 15:20 ] 未分類 | TB(0) | CM(8)

いいですね~。
続きが楽しみです。
[ 2011/11/09 16:21 ] [ 編集 ]

煙に巻かれたわ~
[ 2011/11/10 21:58 ] [ 編集 ]

お久しぶり

お久しぶりです~
今日は久しぶりにゆっくりしたので
おじゃましに来ました

今回のブログ
昔読んだ「星新一」の穴を思い出しました
(正確な題名は穴じゃないかも?)
[ 2011/11/11 20:31 ] [ 編集 ]

不思議~

穴の顛末
気になる気になる~♪
ひょっとして、不思議の国のアリスが落ちた穴のように
素敵なところへの入り口だったりして(^^♪
それだったら私も行って見た~い!

ハナビちゃんは別れた奥様からの気の利いた
プレゼントだったのですね♪
[ 2011/11/12 11:41 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

TSUさん。
おはようございます。ハナビィは東京に来る前に飼っていたネコです。
赤ん坊の時からミルクで育てました。
とても聞かない雌ネコ(りっちゃんみたい)でした。
この物語はしばらく続きます。
フクシマ原発事故のことを書いていきます。
ご期待のほどを・・・

> いいですね~。
> 続きが楽しみです。
[ 2011/11/14 10:36 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

かをるさん。
どんどん巻かれてください。山猫ワールドです。


> 煙に巻かれたわ~
[ 2011/11/14 10:37 ] [ 編集 ]

Re: お久しぶり

ブルさん。
お久しぶりです。忙しそうですね。しあわせさんから聞きました。
星新一の「穴」はすっかり忘れていました。
学生時代に読んだような。
よく考えてみればこれに似た僕の「穴」です。
まだ、続きますから読んでください。


> お久しぶりです~
> 今日は久しぶりにゆっくりしたので
> おじゃましに来ました
>
> 今回のブログ
> 昔読んだ「星新一」の穴を思い出しました
> (正確な題名は穴じゃないかも?)
[ 2011/11/14 10:41 ] [ 編集 ]

Re: 不思議~

greenさん。
おしゃれサロン楽しかったそうですね。
オトコにはできない集いです。うらやましい。

ハナビィは東京に来る前に飼っていたネコです。
赤ちゃんの時からミルクで育てました。
マオとはまた違った可愛さがありました。
穴の顛末は?まだ教えられませんよ。
楽しみにしていて下さい。


[ 2011/11/14 10:45 ] [ 編集 ]

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