M氏の場合

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東京は御徒町、アメ横の酒場<ふくろう>の話である。
<ふくろう>は妙齢の美女が一人でやっている小さな店である。
もともとはフツウのOLだったママが、
時々訪れていた店のオーナーから勧められて、
十数年前にその店を引き継いだのだという。


<ふくろう>の客(オトコ)はこの美女目当てに訪れるのだが、
未だにママのハートを射止めたオトコは居ない。
オトコたちに魅力ある者が居ないのか、
あるいはこの美女がオトコ嫌いなのかは不明である。


最近では美女に迫ろうとする気力も体力もカネも、無くした客たちは、
牙を抜かれたオオカミのごとく、温和しく酒を舐めている。
それでも、諦めの悪いオトコがいて、
毎日のようにやって来てはガードの堅い美女をなんとか我がものにと、
カウンターに座っていた。(過去形)
M氏である。
独身のM氏は親が遺してくれた遺産があり、生活には不安がない。
六十を少し越え、団体職員としてシゴトにも恵まれているのである。
電車に乗って出勤し、仕事が終われば<ふくろう>のカウンターで、
思いの叶わない美女を目の前に黙然と酒を呑み、
誰もいない家へと帰ってゆくという毎日を過ごしていた。


そのM氏の生活に微妙な変化が訪れる。
<ふくろう>の客はオトコだけではない。
オンナも訪れる。
上はもうすぐ八十歳になろうかという女性から、
いいお年ごろのオネエサンたちまで、多いのである。
その中に上野界隈の酒場に勤める女性たちがいた。
<ふくろう>の常連客の誰かが行き始めたのだろう。
次第にほかの客たちも連れだってその酒場に行くようになった。


そして、M氏も若いオネエサンたちのいる酒場に足を踏み入れた。
それは、そこ、オトコたちを脂粉の匂いと、蠱惑的な言葉、
何やら曰くありげな流し目で絡め取ろうとする着飾ったオンナたちが
待ち受けているアリ地獄なのである。


山猫軒などは二十代にしてその恐ろしさと愉悦をたっぷり味わっているから、
「君子危うきに近寄らず」なのだが、
M氏はその歳にして酒場のシステムをしらなかったのか、
または、忘れてしまったのか、
一直線に蜘蛛の巣に飛び込むハエになってしまった。


しかし、M氏は煩悶する。
惚れて通い続けている<ふくろう>の美女はなんとする。
綺麗なオネエサンたちのいる酒場にも行きたい。
<ふくろう>の美女はM氏が他のオンナにうつつを抜かそうが、
一向にかまわない。
しっかり、<ふくろう>に来て財布を開いてくれればそれで、
結構なのである。
M氏は考える。スキだと言って通っていく<ふくろう>に
なんと言い訳したものだろうと。
山猫軒流では<ふくろう>の美女もスキ、
酒場のオネエサンもスキ、二股も三股もOKなのだ。



第一、<ふくろう>の美女とは懇ろになっているわけではないのである。
酒場のオネエサン達ともまた然り。
どちらにも義理立てすることもないのである。
しかし、M氏はグズグズと悩む。
<ふくろう>の美女に相済まぬ。
あわせる顔がない。後ろめたいのである。


とうとう、その後ろめたい思いがほんの些細な出来事によって、
彼は行きにくい状況に自分自身を追い込んでしまったのだ。
<ふくろう>美女がM氏の不実(多少大げさか)を
責めたてたのでなければ、他の常連客がからかったのでもないのである。


過日、<ふくろう>の美女の誕生日に人間が入れるのではなかろうか、
と思うほど大きな段ボール箱が届いた。
M氏からの誕生日プレゼントである。
見事な蘭である。
客たちは(ほとんど何もプレゼントなどしていないだろう)一様に、
M氏の胸の内を想像し、ひとしきり彼のことで座が盛り上がったことは
いうまでもない。


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その蘭も今ではこのような姿になり、
M氏の話題も次第に薄れてゆくだろう。
山猫軒であれば、何食わぬ顔をして、
<ふくろう>に出かけて行くところである。
美女だって、酒場のオネエサン達とおなじで、
M氏は大事なお客なのだから。


Mさん、オネエサン達引き連れて、<ふくろう>でパッと散財しようよ。







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[ 2011/09/02 10:15 ] 未分類 | TB(0) | CM(14)

びっくりしました!
最初の写真、どーちゃんかと思いました。
耳をつければ双子のようです。
[ 2011/09/02 11:09 ] [ 編集 ]

殿方は・・・

まあ、お楽しみであること。くくく・・・と笑っているのは実は女性なのですが。皆さま、いろいろお勉強、ご苦労様です。
[ 2011/09/02 23:45 ] [ 編集 ]

いい女はそうやすやすとは、いかないのでしょうね。
M氏は、恋心を持っているだけでも楽しいんじゃないでしょうか?
こんな大きな蘭をプレゼントされるとは・・
無縁の世界だけに、羨ましいわ♪
[ 2011/09/02 23:50 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

TSUさん。

似てますよね。どーちゃんに。
<ふくろう顔>のネコなんて僕が貰い受けたいくらいです。

[ 2011/09/03 08:49 ] [ 編集 ]

Re: 殿方は・・・

たぬきさん。
おはようございます。
いつも、オトコはオンナに手玉に取られてきりきり舞いをしているようです。
今度上京された時には<ふくろう>本当は<ユロット>へ、ご案内します。
オトコを手のひらで転がす美女を紹介しますよ。


[ 2011/09/03 08:53 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

まこさん。
おはようございます。

> いい女はそうやすやすとは、いかないのでしょうね。

まこさんもそうですか?

> M氏は、恋心を持っているだけでも楽しいんじゃないでしょうか?

あちこちに恋心ですよ。
M氏はね。


[ 2011/09/03 08:56 ] [ 編集 ]

ハートはいらない

オトコも悟ると
やさしい笑顔だけで満足なのね。
ハートなんて邪魔くさい?
それは、オンナが言うことか!
[ 2011/09/03 20:06 ] [ 編集 ]

M氏、なんだか歯にものが挟まっているような
感じの男性に思えます。
女性は、このテのタイプには、あまり好感を
もたないようですけど・・・・
その後のM氏は、どうなったのかしら???
[ 2011/09/04 06:27 ] [ 編集 ]

身に覚えがあります。

 城南の大井町の設備会社に勤めていた頃ですが、近所に美人ママのスナックがオープンし早速常連となりました。
 美人ママには強面の旦那がいることが分かったので、店に働くママの歳の離れた妹に目標を切り替え1年半毎日通いました。
 色々と経緯があったのですが、M氏のように優柔不断なところがあり、彼女は別の常連と一緒になってしまいショックで1ヶ月店へ行けませんでした。その後も美人ママとは昨年店を閉めるまで50年間の長い付合いで、今でもたまには昔話をする事があります。
[ 2011/09/04 10:30 ] [ 編集 ]

Re: ハートはいらない

まこさん。
こんにちは。
台風はどうでしたか?
東京は事なきを得たようです。

> オトコも悟ると
> やさしい笑顔だけで満足なのね。
> ハートなんて邪魔くさい?
> それは、オンナが言うことか!

悟らないでしょう。
オトコは。
笑顔だけではガマンできないと思うよ。
[ 2011/09/04 13:43 ] [ 編集 ]

Re: タイトルなし

トパーズさん。
そうなんですよ。
女性の常連客の間ではM氏の評価は低いのです。
それで、まだ、膠着状態。
店に顔を出していません。


[ 2011/09/04 13:45 ] [ 編集 ]

Re: 身に覚えがあります。

永遠のハードバッパーさん。
おやおや、そうですか。
今度<ふくろう>でその話聞かせてくれませんか?

ところで、その設備会社、大井町のNTビルでは?


[ 2011/09/04 13:47 ] [ 編集 ]

富山の孫?

野田氏のお父上が富山出身ということもあって、地元では彼のことを「富山の孫」と呼んで盛り上がっています。地元紙の盛り上げ方を読んで、噴飯ものでした。いや、そういうことじゃなかろうよ。知人が毎年総理大臣が変わることに対して天皇陛下はどう思っているのだろうと。認証式がありますからね。ここまで来ると、もう誰でもいいのね?という気持ちです。ちなみに私もテレビは民放は一切見ません。
[ 2011/09/04 22:58 ] [ 編集 ]

Re: 富山の孫?

たぬきさん。

いっそのこと、天皇陛下に大政奉還しては?と言いたいですね。
今回は総選挙すべきでしたよ。

ぼくのところはテレビがありません。
貧乏で。


[ 2011/09/04 23:24 ] [ 編集 ]

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