続 猫と暦 第18話 論争





論争



サブローの思わぬ一言からログハウスの会議は熱を帯びたものになったものの、結局のところ、当初の予定通り首相官邸と国会議事堂等は、かつて、カタツムリを頭に載せた蛙を議長として、大勢の生き物たちによる大会議が行われた池のある公園に移転して貰うことになった。
ハナビィ、マチス、アースが揃ってこの案を主張したのである。
流石にサブローもハナビィのこの言葉で、沈黙せざるを得なかった。
「サブローさんは、目には見えない小さな危険なものの中で暮らしたわけではないでしょ。
人間達は逃げることはできたけれど、アタシたち動物はどうなったと思うの?もう二度とこんな原発なんてものは造ってはいけないのよ。
国がどうなろうとかまいやしない。
第一、動物も人間も住めなくなった土地に国が存続できるのかしら?
政治家や官僚が、なんて言っている状態じゃないのよ。
こんな狭い国土にある沢山の原発がいつまた大地震や大津波で事故を起こさないとも限らないわ。そうしたらこの国のひとはどうするの?」
マチスは、
「人間っておかしな生き物よね。たかが電気のためにどうして、こんな危ないことをするのかしら?電気って、命と引き替えにするほどのものなの?」
アースは、
「原発事故がなかったら、ボクは飼い主と離ればなれになることもなかった。
沢山の友達が置き去りになって、次々と、ひどい死に方をしていくのを見たよ。
ただ、ボクは運が良かった。ハナビィさんに会わなかったら今頃はどうなっていたことか?だから、もう、二度と再びこの世界にこんな事故が起きないようにしなければいけないよ」
サツキさんはアースの頭を撫でながら、
「アーチャンの言う通りね。原子力は戦争のための兵器だけでなく、平和利用だなんて言われていたけど、違うわね。やっぱり恐ろしいものなのよね。
燃料だって灰になっても放射能は残るっていうわ。何十万年、人間が地球に存在しているかどうかさえ分らない遠い先まで毒性は消えないだなんて。
絶対に今すぐ原発は廃棄しなくちゃいけないわ」
とサブローと僕に向かって言った。
もし、カタツムリを頭に載せた蛙や白い大きなフクロウ、年老いた亀、お腹の大きなイタチのオカミさん、鴎や烏たちがここに居たとしたら、やっぱり、同じようなことを言ったに違いない。

サブローの言うことにも一理ある。こうして国の中枢を人間の住めない所に持ってきたら、そこで働く人たちは皆逃げ出すだろう。
総理大臣を始めとする大臣達は真っ先に逃げることは間違いない。
総理大臣などは原発事故がまだ収束してもいないのに、他国に原発を売ろうなどということを臆面もなく決めたのだから、防護服を着てでも原発の傍の首相官邸で執務して欲しいと僕は思う。
国の統治機構の崩壊である。たとえ、またどこかの都市にその組織を再構築しても、同じ政策を行う限りは再度移転させる。
原発が全て廃棄され、再び原子力に手を染めないと世界に向かって宣言しない限りはイタチごっこになるのだ。
元官房長官大林興造は背後で首相を操っているとみた。大林はまたその首相を切り捨てる冷徹さを持っている。
もしかしたら、僕達を利用して総理の椅子を狙っているのかもしれない。
おそらく彼は僕達の要求をのむだろう。大林はなんでもありなのだ。権力の座に座るためなら何でもする。目的のためなら親友の恋人を奪い、あまつさえ、その女を捨てて死に至らしめる。それを平然とできる男だ。
僕は窓から鬱蒼とした森を眺めながら、川沿いに建った古いアパートを想い出していた。苦い思いが口の中に広がっていく。
「こわい顔をしてるのね」
サツキさんが僕の手を握りながら言った。心の中に浮かんでいた景色がみるみるうちに遠ざかり小さくなる。小さな手を握りかえした。
「ちょっと、昔のことを想い出してね」
「大林さんとのことね」
僕は答えずに黙ってまたサツキさんの手を握った。

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[ 2012/02/29 22:18 ] 未分類 | TB(0) | CM(0)